大手拓次
『藍色の蟇』

球形の鬼

  
  香炉の秋


 
 むらがる鳥よ、
           こ
 むらがる木の葉よ、
                   めいご
 ふかく、こんとんと冥護の谷底へおちる。
 
 あたまをあげよ、
 
 さやさやとかける秋は いましも伸びてきて、
 
 おとろへた人人のために
  ね
 音をうつやうな香炉をたく。
       てうめつ
 ああ 凋滅のまへにさきだつこゑは
 
 無窮の美をおびて境界をこえ、
 
 白い木馬にまたがつてこともなくゆきすぎる。