大手拓次
『藍色の蟇』

白い狼

  
  林檎料理


 
 手にとつてみれば
                        あはゆき
 ゆめのやうにきえうせる淡雪りんご、
 
 ネルのきものにつつまれた女のはだのやうに
 
 ふうはりともりあがる淡雪りんご、
 
 舌のとけるやうにあまくねばねばとして
 
 嫉妬のたのしい心持にも似た淡雪りんご、
 
 まつしろい皿のうへに
 
 うつくしくもられて泡をふき、
 
 香水のしみこんだ銀のフオークのささるのを待つてゐる。
 
 とびらをたたく風のおとのしめやかな晩、
 
 さみしい秋の
 
 林檎料理のなつかしさよ。