大手拓次
『藍色の蟇』

みづのほとりの姿

  
  雪色の薔薇


 
 またしても 五月のゆふぐれにきて わたしの胸にさくばらのはな、
 
 ひとつの影を ともなひ、
 
 ひといろの にほいを こめて、
 
 さよさよと咲く ばらのはな。
 

 
 ゆふぐれの あをいしづけさのなかに咲く
         ゆきいろ
 しろい 雪色のばらのはな、
 
 こころのなかに 咲きいでる
 
 さざめ雪色のばらのはな。
 

 
 あはれな あはれな 雪色のばらのはな、
 
 ことばをなくした こゑをなくした
 
 ちらちらする おもひにふける ばらのはな。
 

 
 ひとりの ひとりの ばらのはな、
  め
 眼をとぢた 雪色の あをあをとするばらのはな。