萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  すえたる菊


 
その菊は醋え、
 
その菊はいたみしたたる、
 
あはれあれ霜つきはじめ、
 
わがぷらちなの手はしなへ、
 
するどく指をとがらして、
 
菊をつまむとねがふより、
 
その菊をばつむことなかれとて、
 
かがやく天の一方に、
 
菊は病み、
 す
饐えたる菊はいたみたる。