『草木塔』
種田山頭火
銃後
天われを殺さずして詩を作らしむ
われ生きて詩を作らむ
われみづからのまことなる詩を
街頭所見
日ざかりの千人針の一針づつ
月のあかるさはどこを爆撃してゐることか
秋もいよいよふかうなる日の丸へんぽん
ふたたびは踏むまい土を踏みしめて征く
しぐれて雲のちぎれゆく支那をおもふ
戦死者の家
ひつそりとして八ツ手花咲く
遺骨を迎ふ
しぐれつつしづかにも六百五十柱
もくもくとしてしぐるる白い函をまへに
山裾あたたかなここにうづめます
凩の日の丸二つ二人も出してゐる
冬ぼたんほつと勇ましいたよりがあつた
雪へ雪ふる戦ひはこれからだといふ
勝たねばならない大地いつせいに芽吹かうとする
遺骨を迎へて
いさましくもかなしくも白い函
街はおまつりお骨となつて帰られたか
遺骨を抱いて帰郷する父親
ぽろぽろしたたる汗がましろな函に
お骨声なく水のうへをゆく
その一片はふるさとの土となる秋
みんな出て征く山の青さのいよいよ青く
馬も召されておぢいさんおばあさん
ほまれの家
音は並んで日の丸はたたく
歓送
これが最後の日本の御飯を食べてゐる、汗
ぢつと瞳が瞳に喰ひ入る瞳
案山子もがつちり日の丸ふつてゐる
戦傷兵士
足は手は支那に残してふたたび日本に
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