近頃、次々に服飾を取り扱ったいわゆる脱オタ関連の書籍が相次いで出版されている。その内容や有効性については賛否両論だろうが、例えば脱オタ関連の筆頭ともいうべき『
脱オタクファッションガイド』は、秋葉原でもかなり売れているという。オタク達がどの程度ファッションを意識しているかは個人個人で様々だろうが、そういった需要がオタク達のなかにあるということは確認できたと思う。“電車男はオタクへの背徳だ”とか“見た目じゃなくて内面”と主張する人が多いことは知っているけれど、やっぱりオタク達のなかにも
他人からの視線に何かを感じ取っていて、何かをしたほうが良いと感じている人が数多く存在する、という所までは間違いなさそうだ。
『脱オタクファッションガイド』に限らず、既存の脱オタ関連書籍や脱オタ関連サイトは、その時代時代の流行を幾らか意識しつつも最低限の審美性を確保出来る服飾も提案し続けてきたと思う。実際、
“服飾・エチケット以上ファッション未満”というラインに関しては、少し旧い世代の脱オタサイト群の記述も十分に参考に出来るし、そうでなくてもファッション初心者を対象にしたサイトを巡れば大抵の知識は入手出来るので、新しい脱オタ関連書籍はこれ以上必要ないんじゃないかと思える事さえある。これらの書籍・サイトの助言を参考にすれば、“お洒落さんになる”“流行にcatch upしていく”のは無理だとしても“汚らしい格好と後ろ指を指されない”ぐらいは簡単に可能である。敷居の低い低コスト商品を上手に組み合わせるだけなら、コストも勇気も恥も努力も最小限で済ませることが出来る。面白みのある格好をしようと思っている人や、ファッションでライバル達に差を付けようなどと考えている人でない限り、
既存のマニュアルだけでもどうとでも出来ちゃうのだ。以下に示した幾つかのリンク先を読んで参考にするなら、“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”に関する知識は簡単に手に入る。これらすら読むのが面倒くさい人はどうにもならないし、実践するのが面倒くさい人はもっとどうにもならないけど。
【脱オタ関連サイト】
→脱オタクファッションガイドwebsite
→オタにつける薬
→見た目の改造(うちのサイト:内容が若干旧い)
→脱オタサイト・オタク研究サイトレビュー集(ここから色んな所に飛べます)
【ファッション入門用マニュアルサイト】
→いちからはじめるファッション入門マニュアル
→スタイル・コネクション
→サラリーマンスタイル、男のファッション
→花王・らくらくハウスキーピング(服飾メンテナンス関連としては重要)
これら既存の資料を参考にすれば、侮蔑の視線を感じているようなオタクが
“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”を確保するのは実はそんなに難しいことではない※1。掃除や洗濯、身だしなみを身につけようという意欲さえあれば、身につけるのはそれほど時間がかからないし、やたら高価なファッションブランドにまで手を伸ばさなくて済む。無印・コムサイズム・ユニクロ・GAPあたりや、せいぜい奮発して丸井パルコ系の無難なところ
(ジュンメン、ボイコット、メンズメルローズ)ぐらいまでいけば十分と思われる。
さて、マニュアルに沿って“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”をオタクなあなたが確保したとする。ファッションがそれ自体目的ではなく、一つの手段だとすれば、この場合の
あなたの目的は“侮蔑回避”“差別回避”あたりになるのだろうか。実際、既存の脱オタサイト群は、オタクが服飾に手を染める時の動機として、“差別回避”“侮蔑回避”を意識してテキストを編集してきたとも思う。しかし…最低限の審美性を確保しししただけで、あなたは“侮蔑されないようなオタク”として大手を振って歩けるようになるだろうか。晴れて、侮蔑の視線を感じることも劣等感を感じることもなく、異性や非オタク男性と話せるようになるだろうか?
確かに幾らかの成果はある筈だと思う。“あの人ネガティブで陰気だけど、服装は少しマシになったわね”と職場の女性は思ってくれるかもしれないし、初対面の人に悪いバイアスを与える可能性も小さくなる。
埼京線で質の悪い女子高生に痴漢扱いされるリスクも実際に低下することだろう。しかし
問題は、それによってあなたの体感がどう変わるのか?である。外の人間からの審美面に関する評価が変化しても、あなたがそれを体感できなければ、あなたはこの試みを失敗したと感じるに違いない。この場合、自分自身の“侮蔑減少の体感”がまずなければあなたの苦痛は何も変わらないだろうし、あなたの『脱オタの成果』も悲観的な気分に満たされることだろう。
考えてみればそれも当然かもしれない。服飾やエチケットは、本人の気持ちを後押しするほどのファッション然としたものならともかく、
最低限だけを狙った服装は視る側の評価を変える事こそあれ、視られる側の気持ちを向上させる効果を持っていない。そして、視る側はこれまでの「汚い」という見た目についての悪い評価を改めたにせよ、「格好良い」というプラスの評価に改めたわけではなく、あくまで評価を±0にしたに過ぎないという事を忘れてはならない。見た目の評価がマイナスから±0になったとて、それ以外の面で非オタクから馬鹿にされやすいファクターが沢山あれば、やっぱり馬鹿にされ続けるだろうし、
人間的な魅力(
よくオタク達が口にするところの、『内面』とやらだろうか?)が適切にプレゼントできなければ、見た目の加点がよほど高い人間でない限りはやはり侮蔑と嫌悪の対象にされるだろう※2。最低限の服飾とマナーに加えての、なにかプラスαを提供できる用意なり覚悟なりが無ければ、現状を
維持するならともかく現状を
改善させるのは難しそうだ、特に非初対面の相手には。
それと、マイナスの評価が
仮にプラス側になったとて、すぐに肯定的な視線を投げかけてもらえる筈がないことも、脱オタ初心者は忘れてしまいがちである。これまでの見た目と言動によって
あなたが獲得してきたマイナスイメージは、たんまりと蓄積している筈だ。これからゆっくり改善されていく可能性こそあれ、脱オタ完了しても一年やそこらではなかなか評価は改まらない。
この間、“侮蔑減少の体感”は殆ど得られないので、もしあなたが努力の結果がすぐに手に入らないと癇癪を起こすようなオタクだとすればここらで脱落してしまい、手のかからない元の服装にもどってしまうかもしれない。
以上を鑑みると、“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”叶えるだけなら、一冊の優れたマニュアルなり、ネット上の服飾サイトなりで十分可能だが、脱オタ志望者が手に入れたがっている目的、つまり“侮蔑回避”“侮蔑減少の体感”は、それだけではなかなか得られないと推測せざるを得ない。
まして、見た目以外のコミュニケーションスキル/スペック
(オタク趣味露出度とその内容、空気読める読めない、勇気や度量、等々)がそのまんまでは、どうにもならない。そのうえ
あなた自身の心象風景を変更する為のツール(つまり、劣等感や自己不全感を覆ってくれたり、勇気を分けてくれたりするツール)としては、“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”は殆ど役立ってくれない。脱オタ者がユニクロやGAPで満足できずに服オタ化してしまい、知らず知らずのうちにファッションにアドバンテージを期待してしまう人が多いのも結局この辺りのためで、無難で最低限のエチケットを確保した程度では自らの“侮蔑体感度”“劣等感体感度”が減少しないと感じた彼らは、服飾によるアドバンテージでそれを何とかしようとしてしまいがちである
※3。彼らは、劣等感を何とかしてくれる事を服装に期待し、過剰に期待してしまう。
ここでもう一度確認しておきたいのは、脱オタを試みる人達が
“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”に期待しているものは何なのか、というポイントである。なんのかんの言っても、彼らがエチケットなり最低限の服装なりに期待しているのは、“侮蔑されないこと”“人間扱いされないこと”であり、劣等感や自己不全感を刺激するような視線をもう感じなくていいようにすることに他ならない。ファッションほどあざとく差異化・差別化を通して
アドバンテージを得ようという意図は無いかもしれないにせよ、他者からの眼差しに対する期待と不安は間違いなく存在する。なかには、異性に接近出来る確率が少しでも高くなることを期待している人もいるかもしれない
※4。だが、先に述べた通り、“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”は
あって当たり前のものであって、これまでマイナスの評価を受けてきた者の評価を改善させるのではなく、これ以上マイナスが蓄積するのを回避させるに過ぎない。しかもそのマイナス抑止効果も、身だしなみを改善させた瞬間に発生するものではなく、じわじわと改善することにも留意していただかなければ
※5。ことはそんなに簡単ではない。
よって、どこかのマニュアルから“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”をコピーアンドペーストしてきた
だけでは、多くの脱オタ者が隠し持っている目的や願望は到底達成困難と私は結論づける。もちろん、浮浪者のような格好や見苦しい姿を晒さないエチケットを手に入れるのは世渡りをしていく上で必要不可欠なスキルだと思うし、
そういうスキルを持たない人は出来るだけ早く身につけておかないと当然の如き差別に晒されるに違いない。だがそれらの基本的スキルは初対面の時にもあくまで±0として評価されるものに過ぎず、いつもの学校/職場の人達の評価を好転させるほどの力を持ち合わせているものではない。また自分自身に勇気や強気を与えてくれるものでもない
(よりファッションらしいファッションは、この限りではないかもしれないが)。この事は、劣等感や自己不全感をそれほど持たない人の服飾整備においては些末な問題だろうが、服飾に対して劣等感解消の密かな期待を抱いている人や、他人に馬鹿にされているような視線から逃れたいと願望している人
※6にとっては残念なことだろう。そこまでを期待して一冊の脱オタマニュアルを手に取る人は、どうか期待しすぎないで手にとって欲しいものである、効果をわきまえて。
【まとめ】
一冊の脱オタマニュアルは“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”をあなたに提供してくれるかもしれないが、あなたがそれをもってして解決したいと願っている“侮蔑の視線体感度”を何とかしてくれるわけではない。また、あなたの劣等感や自己不全感に対する力づけも殆ど期待できない。あなたの
審美的問題点に対する風当たりはマイナスの評価から±0になるとは思うが、逆に言えばそれだけで、これまでのマイナスの蓄積が改まるには時間がかかるし、服飾やエチケット以外の諸評価が変化するわけでもない
※7。もっと様々な工夫・苦痛・屈辱・行動がなければ外からの評価を変えることは出来ないし、“侮蔑の視線体感度”の改善にも繋がらない。ひいては、自己不全感や劣等感の改善や“少しは俺もがんばった甲斐があったかな?”と思える瞬間にも到達できっこない。
現在、私は脱オタ関連の初等ガイドラインの製作を企てているが、その内容は上記を踏まえたものにしなければならないと考える。少なくとも、それが
ファッション入門同人誌ではなく、脱オタ入門同人誌を志向する限りは。服飾面での最低限のコピーアンドペーストを機械的に提供するだけでは、脱オタ者が
(服飾整備などのコミュニケーションスキル/スペック改善を通して)密かに期待している屈辱や苦悩に殆ど影響を与えられまい。脱オタの手段と目的を認識するならば、もっと様々な処方が追加されなければならないだろう。その内容には、本人が辛くて苦痛で屈辱で仕方ないものや、幾ばくかの金銭と時間を捨てるが如き行動も含まれていなければならない。ところどころは運や縁や個人的素養に頼らざるを得ない部分もあるだろう。時間だってかかる。
もしかしたら、思春期が終わってしまうぐらいまでかかるかもしれない。
だがそういった艱難辛苦も含めて正直に記述しなければ、劣等感や自己不全感を本気で何とかしたいと考える人達に対して誠実な回答をしたことにはならないと思う。たといシビアな内容になったとて、これから脱オタを試みる人達には
(理想や理屈ではなく)できるだけ
現場に近い、実践的で必要そうなことを伝えたいと私は考えている。私のサイトは拙すぎて、がんばっても
これぐらいという有様だが、必死な気持ちでいる読者を白昼夢でごまかすような真似はしたくない。事実と実践を少しでも後発者達に伝え、彼らと知識と経験を共有していくことこそが、私のサイトの脱オタ部門が目指す目標である。そのような後発の脱オタ者のいる限り、拙いながらも議論を展開していこうと思う。“最低限の審美性を確保する服飾とエチケット”のマニュアルだけではどうにもならない部分を、いやそんなモノよりも遙かにつかみ所の無い抽象的で記述困難な部分を、私は切り捨てずになんとか言語的に表現できるように藻掻いてみたい。
こうした方向性は“一冊だけのマニュアルに御利益を期待するような甘い人”を切り捨てるものになる事は承知しているし、脱オタというタームで議論する&ネタにすることで
知性化を展開している人達にとって面白くない内容になる事も知っている。だが、
私の脱オタ関連テキストは、あくまで本気で脱オタをやってみようかと思っている人に役立つことを第一義としているので、そうでない人に快/不快を与えるか否かは二義的な問題でしかない。むしろ、敷居の高さや困難さを認めてそこで諦める人が出るというならそれも良い――どうせテキストを読んだだけで挫ける程度なら、脱オタ関連のチャレンジに耐えられるわけがないのだから――。一冊の脱オタ服飾参考書を通読しただけでは所詮そこまでと考えながら、本気の人や覚悟が出来た人にこそ役立つような脱オタ方法論を今後もネットなどで私は展開しようと企む。当然、その内容は
一冊のガイドブックで完結するようなものにはならないだろうし、
(心の有り様を変える際には必ず要請されるように)筆者が主役ではなく読者が主役になるものでなければならないことだろう。
★このテキストで書いた最低限の服飾整備などには、ファッションが流転し続ける差異化ゲームである事についての考察が欠落している等問題もありますが、紙幅の都合で省略しました。が、無視できない要素だなぁとは思います。
【※7諸評価が変化するわけでもない。】
だとしたら、何が脱オタ者に最も必要なのか?
どのような方法が役立つのか?
ケースバイケースや得手不得手の問題はあるにせよ、最低限の服飾とエチケットだけではなかなか話が進まないことだけは間違いない。それで上手くいくなら、とっくの昔にもっともっと多くのオタクが葛藤から自由になっていてもおかしくない筈だが、生憎そうなってはいない。振り返ってみると、最低限の服飾とエチケットという点では、昔のオタク達も案外きちんとしている事は多かった。
この、要請されるプラスαについては、各オタクサイトやうちのサイトを調査して頂ければ何かがわかるかもしれない。もし知りたいと思う人がいるようでしたら、
各種リンクを辿ってみてください。丁寧に読めば、何かが掴めるかもしれなません。知りたくない人は、知らないままでいて頂いても別に構わないと思います。