こんな夕暮れには

夕闇に
雨の匂いを感じながら
風になる

足速に帰路につく人
買い物袋を下げて
信号待ちの車で
肩を寄せるふたり
様々な人たちの上を
ただ通り過ぎる
風になる

ざわめきに耳を澄ませば
それぞれの生活
愛に溢れ
仕事に疲れ
誰かに傷ついて
そのどれにも心を開かず
通ったことにも
気づかれない
風になる

関わりは後ろを向いても
追いかけてくる
明日の朝には
生産性ひしめく現場

だからせめて
春待ちの暖かい夕暮れ
降り出した雨に
肩を濡らしながら
想い遙かに広がってゆけ
風となって

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