『外傷』

 

11月15日無事アメリカより帰国。帰りの機内では緑茶がとてもおいしくて感じられて緑茶を何度もおかわりしてしまった。

 

10日間、文鳥たちと離れて暮らしたのは初めての経験だった。家族に久しぶりに会えるという嬉しさより、

 

文鳥たちに久々に会える嬉しさが勝っていた。(時々、娘に「父さんは人間の子供より、文鳥たちのほうが大好きでしょ」と言われる所以)

 

特に早く見たいのが、嫁様が頑張って世話してくれた北太子六号〜九号だった。

 

もう一羽、奇跡の誕生の北十号はハクとトンの一粒種として健やかに育っているようで、この北十号は翌日16日に

 

サン国へ旅立つことになっていた。家に到着して雛を見る。太子たちは10日間でしっかりと成長している。

 

10日前は、赤裸々の状態でようやく両翼の羽軸が伸びてこれから羽が開こうかというような状態だったのが、

 

今では文鳥の雛独特の茶灰色している。そのうえ、これまで育てた雛よりも人間に甘える文鳥になっていた。

 

まだ時差ぼけのため、ボーっとしているような気がするが日曜日と代休を取った月曜日の2日間でじっくり文鳥ワールドに

 

どっぷりつかるつもりでいた。

 

翌日の日曜日、予定していた北十号の里親さんが来られた。

 

ちょうど、17日目になるこの雛は壷巣の中で、一粒種として仮親に育てられた。よって、まだ人間に触られていない。

 

里親さんの前で、左朝の籠を掃除しながら素早く壷巣を取り外す。

 

ハクとトンは「何するのだ!」と騒いでいるが、こちらはこちらの事情があるのだ。

 

いつものように掃除が終わった籠には、壷巣がなくなっていた。

 

ハクとトンは壷巣が無くなっていることに気づいていないのか、自分たちの役目が終わってやれやれと思っているのか、

 

さっきまでの騒ぎはなく伸び伸びしている。早速籠から取り出した壷巣の中に手を入れ雛を取り出す。

 

11日前に見た兄者たちと同じような状態だ。里親さんに状態を良く見てもらって連れて行ってもらった。

 

奇跡的に誕生したこの雛は通常の雛より高い生命力を持っているだろうから、簡単に夭折することもなくすごく長生きするだろう。

 

今日は、エリザベス女王杯があり馬券も何とか的中!北十号が出国したため連続給餌の心配もなくなり、気分的には浮ついていた。

 

その上、時差ぼけと寝不足のためかいつものように焼酎のホッピー割を飲んでいるがいつもより酔い方が早い。

 

何か腑抜けになったようだ。久々なPCに向かっていても何か反応が鈍い。

 

ぼーっとした頭で酒の御代わりを作ろうと立ち上がったとき、それは起こった。

 

立ち上がってリビングの方へ振り向いた時、嫁様が「あぶない!あぶない!」と連呼する。

 

何事なのかピンと反応できず足を前に振り出した瞬間、爪先に柔らかい感触がした。

 

私の後の畳の上で西参号が遊んでいたのだった。

 

それに気がつかず足を振り出したため、西参号を蹴飛ばしてしまったのだ。

 

「ボキボキボキ」という痛ましい音がして西参号は炬燵布団の裾まで約50cmほど吹っ飛んだ。

 

「あー、遂にやってしまった!」いつかは自分も他所様の事故と同じ様なことを引き起こすのではないかと一抹の不安は持っていた。

 

遂に遂にこの時が来たのかと思いながら、西参号を拾い上げて手の中に抱く。西参号は「ギュェギュェ」と苦しそうに苦悶の鳴き声をあげる。

 

くちばしは潮が引くように赤味が消えていき、体温が急激に下がっていく。嫁様が「大丈夫?」と心配そうな顔をして覗きに来る。

 

「「あぶないあぶない」だけじゃわかんないだろう。「足、足」とか「ストップ!」とか言えよ」と八つ当たりしてもどうにもならない。

 

西参号は手の中で苦しそうな息をしながら目をつぶっている。

 

娘が一番気に入っているこの雛が死んでしまったら、とてもがっかりするだろうと思いながら、病院へ連れて行くことについて考えていた。

 

夜の10時半、日曜日、病院は先ず無理だ。車を運転するにしてもどちらも酒を飲んでいるからやばい。

 

車を運転できないことは無いが、あんな音がしたのだから連れて行く間に絶命するだろう。それなら私の手の中で看取ってやりたい。

 

しばらく手の中に抱いていたがすぐには死にそうに無い。(この時は絶対死ぬと決めつけていた)

 

30分ほど手の中に抱いているうち、苦しそうな呼吸が収まってきた。シリンジで水を飲ませてみると、何とか喉を通るようだ。

 

(あまり、話を引っ張るのも良くないので結論から言うと、けがは打撲で終わり西参号は北四号のところへ元気にお嫁に行きました。)

 

とにかく隔離生活をさせないといけない。ふごでは水や餌をどうやって自由に食べさせるかという問題があるので、升籠を使うことにした。

 

升籠の中にキッチンペーパーを敷いて予備のボレー粉入れに水を入れ、付属の餌入れに餌を入れ電気アンカの上に升籠を置いて保温に努めた。

 

西参号はまだまだ体が痛むようでじっとしている。左側の羽根はだらんと垂れ下がっている。

 

(この時は、あんな音がしたので骨折と決め付けていた。今でも絶対何本かは折れていたと思う。)

 

爪先に当たった瞬間、足をぱっと止めたのが不幸中の幸いだった。

 

今夜はこれで対処すると事にし、明日は千葉市の東の外れにある有名な鳥専門病院へ連れて行くことにした。

 

いつも行く病院では骨折の診断、治療はちょっと荷が重いのではという気はしたからだ。

 

翌朝、一命を取り戻した西参号を升籠に入れたまま、布製の手提げバックに入れて高速道路を車で走る。

 

病院のWebサイトを見て場所を確認したつもりなのに、現地でウロウロ道に迷う。

 

自分自身に舌打ちしながら誰かに場所を尋ねようかと思い始めたときにその病院を見つけた。

 

駐車場にはスペースの2/5くらいが駐車してある。結構待たされるかなと思いながら、病院のドアを開ける。

 

待合室には誰もいない。受付の女性に昨夜の出来事を話す。少し待たされて診察室へ。

 

にこやかな顔をした院長が出迎える。(名札を見て判断)またまた昨夜に話をする。

 

先生はあちこち触った挙句、掌に乗せた西参号をふわっと飛ばせて羽根の状態を観察する。

 

院長先生の話「背骨が骨折していれば即死です。レントゲンを撮っても胸骨の細い骨の様子は分からないんですよ。

 

たとえ折れていても対処の方法は無いです。ま、打撲でしょう!ついでに健康診断としてそのうと便の検査をしましょう。」

 

手際よく検査体制に入る。先生の期待に反してか何も見つからない。但し、そのう液の中には血液が混じっていたらしい。

 

先生「打撲とみて間違いないです。健康診断は時々したほうが良いですよ」。

 

私「ここまで来るのは遠いですから」

 

先生「うちの患者の半分は県外ですから近い近い」(失礼と思いながら、商売熱心だなと思いました)

 

その後、1週間枡籠生活をした西参号は、雛様籠でリハビリしたあと、お嫁に行きました。

 

年末には、里親さんの都合で里帰りする予定です