『転生』
10月3日より、ナンが北太子弐期生の卵を産み始めた。前回は、8月19日から産み始め、26日までの間に6個の卵を産んだので、
今回のそのくらいだろうと思ってたが、順調に毎日1個づつ産み、10日までに合計8個の卵を産んでしまった。
何と驚異の産卵数だろう。しかしナンは、けろっとした顔で抱卵に入っている。前回の成績を考えると、
7個くらいは孵化しそうだと判断できる。前回、5羽の雛を育てた時に育雛疲労の為、息も絶え絶えになりそうだったハツのことを考えると、
「7」という数字は危険だった。仕方がないので卵の数を減らさなければならない。
雛を取上げられ、箱巣も取上げられて何かと騒がしい左朝の夫婦の為に壷巣を入れておいたが、
この夫婦も産卵を10日遅れの13日から産卵を開始した。西太子として3羽の健康な雛がいるので、
これ以上の西太子は必要ないので、卵は総て処分しなければならなかった。偽卵に全部掏り替えようかと思案していた時、
文鳥漫画に出てくるあるシーンを思い出した。「托卵」だ!右朝の卵の半分に当る4個を左朝夫婦に面倒見させようと思い付いた。
そうする事により、右朝夫婦の抱える卵は4個になり総て孵化したとしても前回の5羽より1羽少ないのでハツも少し楽ができるだろう。
そして4個中3個の卵が孵化した場合、確率的にオス・メスどちらか1羽はいるだろうから、
西太子と北太子でうまく性別が合って夫婦にすることができるだろうと考えた。
ナンが8個産み終わった時点で卵の選別に掛かる。有精卵っぽい卵を右朝夫婦に預けることにした。
全て空振りになることはないだろうが、可能性の高い卵を実の親に温めさせ育てさせたいと思ったからだ。
また左朝夫婦に預けた4個のうち半分以上は孵化するのではという期待もあった。実はここの点だけが考えが甘かった。
と言うのは、文鳥は孵化する日を揃えるために半数以上の卵を産んでからではないと抱卵に入らない。
よって正統派のトンは何個産むつもりなのか判らないが、まだ真剣に温めようとしない。
ところがちょっとお馬鹿なナンは産んだらすぐ抱卵を開始する。
一度温められた卵は、細胞が目覚めて成長するらしいので途中で保温がなくなると死んでしまって中止卵になってしまう。
ということは、預けた卵は孵化しないということになる。ちょっと焦ってしまったという感は拭えないが、
8個の卵を抱卵して孵化させるのはもっと可能性が低いとの判断から左朝夫婦に4個を托卵させたのが、
托卵の大きな理由だから仕方がないと思った。今回トンに預けた卵は諦めるしかない。
そのトンは合計6個の卵を産んだ。よって、差引き分の2個を偽卵と交換した。
(勿論、ナンの卵には印をつけていた)孵化予定日は産卵後20日前後になるので、10月23日前後になると予想された。
またこれが、何とまぁ間が悪い。23日に孵化したとすれば、巣上げする時期は2週間後として11月6日になる。
この日は私が米国へ出発する日じゃないか!(は〜〜っと溜息)不慣れな嫁様に預けて米国に10日間も行くなんて・・・・。
何か対策を講じないといけない。そこで思いついたのが、前回、西五号でうまくいった「フォーミュラーオリジナル」を使った給餌だった。
これならば、給仕する時間は節約できるし、そのう炎になることは考えられない。
「フォーミュラー」を与える時間と濃度の計画指示書を作っておけば、嫁様でもなんとかやってくれるだろう。
しかし、帰国するまで「フォーミュラー」で育雛する気には到底ならなかったので、22日目からは粟玉に切り替える計画にしておいた。
というのも、嫁様のアルバイトの仕事を文鳥育雛の為に長い間休ませられないという理由もあった。
22日も過ぎれば、粟玉を1日3回与えるだけで十分と言えないまでにも不足にはならないという判断があった。
渡米中の観光スポットなどの下調べなどで、わせわせやりながら孵化予定日が近づくのを待った。
10月22日、予定通り北六号・七号が揃って孵化している。予定通りばっちりだった。
後の卵は明日以降の孵化になるだろうと思いながら恒例の写真撮影を行う。
この夫婦は、覗いても写真を撮っても育雛放棄した事がないのでありがたい。
翌日の23日に北八号が元気良く産まれる。三羽とも全部同じ性別になる可能性は低いだろうから、
これで王朝の代重ねは順調に行えるだろうと安心した。
最後の1個となった卵が孵化するかどうかだったが、巣上げする時期のこともあるので早く産まれてくれないかと案じていた。
しかし、2日後の25日になっても孵化しない。この卵は駄目だったのだろうと処分しようかと思ったが、
翌日の26日の日曜日に籠掃除をするときに処分することに決めた。
ところが翌朝、掃除をして箱巣の中を覗いてみると、やはり孵化していない。
成績優秀なこの夫婦でも100%の成績は無理だろうから、この卵を墓所に埋葬しようかと思ったが
何となく気が引けてしまい夜になってから埋めることにした。
夜になり箱巣を覗くとなんと北九号が生まれている。最後に産まれた卵は10月10日だったので、逆算すると16日後になり、
最後の卵が北九号として孵化したのだとこの時は判断した。
合計4羽の雛が産まれ、北太子壱期生で死んでしまった4羽が再び還って来てくれたのだと何とも言えない気持ちになった。
二度と同じ事が無いようにできる限りの体制で準備しているので、上手く育ってくれるだろう。
これで既に籠生活している西参号・四号・五号と北六号・七号・八号・九号との7羽の雛と4羽の親鳥の合計11羽の放鳥が楽しみになった。
あとは、嫁様に順調に育ててもらうだけだった。(実際、期待以上に応えてくれた)
左朝のハク王とトン王后に預けた卵は、北九号が孵化した日がリミットと考えると、
そして托卵の時期が早かった事から孵化する希望はまったく持てなかった。
慌てて卵を取り出す必要もないし、こうやって抱卵する機会はもうないだろうから飽きるまで抱かせようかと思っていた。
しかし、驚異の生命力を注ぎ込んだハツとナンの卵は、見事にマイナス的な希望を裏切ってくれた。
10月31日に、北十号が産まれてしまったのだ。どう考えてもおかしい。
最後に卵が生まれたのは、10月の10日。
この卵が北十号と仮定すると21日目に孵化した事になる。それ以前の卵だとするともっと日数が掛かったことになる。
ましてや、抱卵されていたのを、托卵したために一時抱卵中止されていた卵なのに。
左朝のハク王とトン王后は、そんな飼主の心境など知るはずもなく産まれた雛の育児に張り切っている。
この夫婦の住居を壷巣にしていた為、中の様子を容易に覗けない。おまけにハクがもの凄くガードする。
こうやって奇跡的に産まれた雛の誕生は喜ばしい事だが、巣上げする時期を計算すると丁度、帰国した時になる。
ようやく育雛から開放される嫁様に、また連続してこの雛の育雛の協力を得る事は、私にとって途轍もない貸しをつくってしまうし、
アルバイトをこれ以上休ませる訳にはいかないので現実的には無理だった。
仕方がないからこの雛は20日ぐらいまで仮親に育てさせる事に決めた。こういうのが嬉しい悲鳴というのだろう。
11月3日、掃除のついでに残っていた卵を墓所へ埋葬した。驚く事に残った卵は総て受精卵だった。
卵の中で15日目くらいで死んでしまったのだろう、皆同じ様に雛の形で死んでいた。
途中で一度抱卵を中止された影響が原因かどうかわからないが、こればかりはどうしようもない。
もって産まれた生命力の違いと思うしかない。結局、右朝の夫婦は8個の卵を産卵し、総て受精し、
過酷な条件のもとでも孵化させる驚異の生命力を注ぎ込んだというのが現実なのかもしれないが、
北太子壱期生がパワーアップした生命力で転生してきたと思う方が話的には面白いと思える。