『源姫』
1月26日
それは、衝動買いだった。
年が明け、千葉市内のペット屋でなかなか気に入る文鳥に巡り会えず、もう少し待たなければいけないと、半分諦めかけている状態だった。
1月11日に西船橋の方にある小鳥卸商の店に行ってみたけど、飼主の希望する文鳥はいなく、その上そこの大将が言うには、
「文鳥のメスは最近少ないんだよなぁ」とぼやく。そして「来週には桜のメスが2羽入ってくるよ」と教えてくれた。
これは商売熱心なのか?この店では桜文鳥を1羽1000円、白文鳥を1500円で小売りする。
コストパフォーマンスはとっても魅力的なのだが、またこの店まで来て、容姿を見て、いりません、結構です。と、言うのは、
とても面倒な事と思い、他の店で探す事とした。親切な大将は、「オスをつかまされないようにな」と注意してくれた。
しかし、最終手段としてこの店から新姫の輿入れをするしか、他に手は無いかも知れないという気持ちには成っていた。
実は本命が有ったのだ。それは、千葉市の東側にある総合ペットショップだった。
この店には、02年秋生まれの桜文鳥が2羽程いる。生後、2ヶ月位の雛で、勿論性別はおろか、雛毛からの換羽も終わっていない。
あと1ヶ月程待つしかない。しかし、その間に売れてしまう事も有り得るし、成長した容姿が気に入らない場合もある。
せっかちな飼主はこういう宙ぶらりんな状態が苦手だった。そこで大学時代を過ごした門前仲町に小鳥屋的鳥屋が有ったのを思い出し、
会社の帰りにちょっと探索してみようかという気になっていた。まったく諦めの悪い飼主だ。
飼主の心情には、王朝の源流となる初代の王后は、健康で丈夫、容姿満足、若く産卵経験の無い文鳥という、文句の付け所の無い超理想的
スーパー文鳥なイメージが有った。いつ行こうかと思案していたが、先週末にふっと思い出した店が有った。
02年の夏、太子達を購入する為に千葉近郊にあるかなりの数のペット屋の事前調査を行った。約30軒程のペット屋を3ヶ月掛けて探索した。
(この事については、外伝『’02夏』に記載)
その店の中で、総武線沿線の駅近くにある小鳥屋があった。その店は、おばさんが1人で経営している鳥しか扱っていない小さい店だった。
あの店ならもしかして若鳥がそろそろ入荷しているのではないかという気がした。
(休日に何も行動しないのが不満であり、たとえ空振りに終わっても何か行動を行ったという自己満足だと我ながら思う。)
通常の移動は、車で行うがそこの店には駐車場が無く周りにも適当な場所が無いので、バスと電車での移動とした。
目的の店に入り、文鳥を見つける。籠の中には白文鳥と桜文鳥が2羽づついた。
「桜文鳥のメスはいますか?」と尋ねると、「その桜は2羽ともメスですよ」との返事。
ラッキー!おばさんの説明では、大柄な方は手乗りで、華奢な方は手乗りでないとの事。
産まれた時期は半年前だと言う。それはおかしい。半年前なら8月だぞ。その時期に産まれる事が有るのかなという疑問が浮いた。
ま、多分勘違いが入っているのだろう。その辺は大目に見て容赦、容赦。
文鳥の容姿はどちらも飼主の好きな型で胸のぼかしがほんの少しだけ入っている。手乗りの方は、人懐っこく指を見せると甘噛みする。
アイリングと嘴の色は淡いが嘴の上側は厚い、そして食欲旺盛だ。胸のぼかしは、平べったい逆三角形に見え花びらとは言えない。
これはたぶんメスで間違いないだろう。手乗りでない方は、華奢だが胸のぼかしの入り方がとても良い。
アイリング、嘴とも色が濃くその上嘴の上側が厚い。その為、とてもオスっぽく見える。これは選択が難しい。
おばさんに値段を尋ねると1羽4000円との返事が返ってきた。 高い!。
高いという顔をした為か「雛は安いんだけど、大人になるとその分高くなるのよね」と、言ってきた。これはどうしようか迷ってしまった。
また次に機会にするか。1羽だけにするか。しかしどちらも欲しい。
う〜ん、もっと安ければ即決なんだけどなぁと思案しながら文鳥を眺めていた。何気なくおばさんに
「仕入先はやっぱり関東近辺なんですか?」と尋ねたら、意外な答えが返ってきた。
「えーとねぇ、名古屋の辺りからなのよ」(弥富!)「弥富辺りですか?」
「半農半・・・、農業をやりながら、文鳥を飼育してるところだったわ」その答を聞いて、絶対に欲しくなった。
再び「この2羽はメスで間違いないですよね」と、また訊いてみた。
「手乗りの方は、私が育てたから間違いないと思うし、もう片方は、商社の人がそう言っていたし、どちらもメスですよ。
卵を産んだ事は一度も無いし。」という返事が返ってきた。
オスだったら卵を産むわけ無いじゃん、とちょっと納得行かない気持ちになったが、ま、そんな事はどうでもいい。
疑い出したら限りが無い。おばさんの言葉を信じよう。後は、値段だけだ。ケチな飼主にとって、2羽で8000円は無理だった。
ここは、価格交渉だ。元々、姫様の価格は1羽2000円位の予算でいた。しかしこの店で、1羽の値段で2羽売ってくれと言っても
無理な事は明白だ。これは落とし所が肝心だぞ。2羽一緒に買う事にしたら、間違いなく値引きしてくれるだろう。
そこで「2羽まとめて、7000円でどうですか」と切り出した。1羽3500円なら、若い分と容姿分と弥富ブランド
(店のおばさんは一言も弥富産とは言っていないのに、飼主が勝手に弥富産だと思っているだけ)
+1500円分は有ると、自分自身に言い訳をした。おばさんは一瞬止まった。値引きを言われる事は滅多に無いのだろう。
ちょっと迷ったおばさんは「いいですよ」と仕方ないといった感じで答えてくれた。消費税無しのぴったし7000円。
文鳥を紙箱の中に入れてもらい、家路を急いだ。
家に帰り、すでに購入していた籠を組み立てる。しばらく環境に慣れるまで、公主達は別宮にて逗留願う事とする。
大喰らいの手乗りは、王朝の餌が気に入った様で貪り食っている。一方の手乗りでない方は、落ち着かない様子で籠の中を跳ね回っている。
王朝の慣例では粟穂が与えられるのは土曜日だけとなっているが、今回目出度く嫁いで来た公主に対し、祝いの粟穂を与える。
しかし、生まれて初めて見た粟穂が食べ物と理解する事が出来ない様で、怖くてそして警戒して近づく事が出来ない。
こんなひょろ長い物は不気味なのだろう。しかし、ほっとけば好奇心から近づきいずれ食べだす事だろう。
一通り籠の中の飼育用具の整備が済み、公主達を観察してみる。
手乗りの方は、ややぼさっとした感じで田舎くさい雰囲気をしている。手乗りでない方は、やや華奢だが精悍な感じを受けた。
どちらも健康そうで、羽や脚に色も悪くないし、お尻もきれいだ。ただ爪が伸びているので、近々切ってあげなければならない。
公主達を眺めながら良い買い物をしたと飼主は満足に浸るのだった。
ようやく公主達の糞が夫々採取できたので、動物病院へ検査に持ち込む事にした。
我が家には先住鳥が4羽いる。もし公主達が何か感染症を保持していて、他の鳥に感染させる病気が発生したらとんでもない事に成るので、
糞だけは検査してもらう事に決めていた。その動物病院は、持ち込んだ糞だけでも検査を行ってくれるありがたい病院だった。
検査結果は、問題なしとの判定。これで、目出度く輿入れが決定した。
今後の太子達の恋の駆引き、相性等の展開が飼主にとっての楽しみとなった。
自宅へ戻り体重を量る。手乗り:26g 非手乗り:24gだった。満足できる数値だ。
それと、公主達に命名しなければ成らない。実は予め用意してある名前があり、どちらにどちらを付けるか迷っていた。
結局、手乗りの姫を『トン』 非手乗りの姫を『ナン』と名付ける。嫁様が名前の由来は?と訊くので、
手乗りは、豚みたいに良く食べるので「トン」とし、非手乗りは、非手乗りなので慣れるのが難しいだろうから「ナン」と名付けたと教えた。
実際は30羽分まで名前が用意して有る事を聞けば、「あほ」と一笑に付される事は間違いないだろう。
今夜は輿入れして来た初日なので、公主達は放鳥せず籠に入れたままにしていた。
太子達はというと、新参者に対し興味を示すが敵意は無い様だ。うまく好みが分かれて、良い夫婦になって貰いたいものだ。