『疑惑』

2月2日

 

昨日、玉座簒奪を狙う不埒なやつを本国へ強制送還した。

 

小鳥屋のおばさんは、送還者を見て「あら、メスからオスになっちゃったのねぇ」と仰る。(そんな簡単に性転換するかよ!)

 

この話を嫁様にしたら大受けだった。仕方がないので、代わりの公主が来るまで辛抱するしかない。

 

送還者がいなくなった事によって、送還者が暮らしていた一番籠を熱湯消毒することにした。そして、この籠にハツを移す。

 

今までハツが暮らしていた弐番籠も熱湯消毒して、新しい公主の新居として準備する事にした。

 

この弐番籠には、ハツの苦手な青いブランコが吊るしてある。

 

青いブランコにやっとハツが慣れてきた様だったが、このブランコに新しい公主がもっと慣れていれば、

 

弐番籠の居住権は公主に有るという事になるだろう。そうすると、我の強い孤高のハツ太子が、この籠で同居を始めた時に

 

少しは下手に出るのではという目論見があった。(最近の飼主の目論見は、はずれてばかり・・・・)

 

もう一羽のトン公主は、ハク太子と喧嘩する事無く、健やかに暮らしているが、どーも怪しい。

 

最近、容姿的にはオスっぽく見えてきた。「文鳥団地」のサイトへ送還者の事を掲示板に載せた時、

 

二枚目の写真を送還者とトンと間違えて貼り付けてしまった。

 

管理人のジャクボー氏のコメントに、「この文鳥はオスっぽいですね」との返事が書き込んであった。

 

(他の閲覧者にはあまり関係ないので、そのままとして差替えはしなかった)

 

つまり、ジャクボー氏にもトンがオスに見えるという事だ。その返事を読んで、「やはり、こいつはオスじゃないか?」という気に、

 

ますますなってしまった。そうは言っても、ハクとトンの仲は悪くはない。

 

どちらかと言うと、元彼がいなくなってからは、ハクとトンの仲は日増しに良くなっている。

 

そのハクは、当初とは違って恋の手順を踏む様になった。ソング&ダンスと一連の求愛行動をとる事を勉強したようだ。

 

ところが、その求愛行動の後、逆にじっとしていたトンがハクの上に乗っかろうとしている。

 

「まさか、やっぱり、お前もオスか!」疑念の黒雲が沸き起こる。以前から怪しい、怪しいと思っていたが、お前も玉座簒奪を狙う者なのか!

 

しかし、1・2回の行動で決め付けるのは早計だ。そして確証的証拠が必要だった。

 

その証拠は、オスの証といえるさえずりしかない。先の送還者はさえずりによりオスと断定し、強制送還とした。

 

トンがさえずれば同じ運命になり、あの薄暗い店に再び戻る事になる。そして、二度とその店には行かないだろう。

 

しかし、トンはさえずるどころか、ぐぜりもしない。その後はハクの上に乗っかる行為もしなくなった。

 

その他に、このトンは水浴びをまったくしない。送還者さえ、送還される直前では水浴びが出来る様になっていたのに。

 

もしかすると、ハクが目の前で水浴びしていても、トンは水浴びという行動を理解していないのではないだろうか。

 

よし、我が家の太子と同様、綺麗好きな文鳥にしてしまおうと、霧吹きでトンに水を掛けてやる。

 

何事かと籠の中でパニクル、トンだったけど、しっとりと濡れた後は気持ち良さそうに羽繕いをしている。

 

よほど、気持ちが良いみたいにみえる。いずれ、水浴びも自分で出来る様になるだろう。

飼主がPCに向かっている午後の陽だまりの中で、文鳥のさえずる声がする。

ハクとハツの声じゃない様だったので籠の方を見ると、トンが今まで唄っている様に見えた。

まさにその時、トンと目が合い、トンは、「しまった」という顔をした様な気がした。

たまたま、他の太子が唄っている時とタイミングが合って、唄っている様に見えたのかもしれない。

もう一度、唄わないかと観察しつづけたが、それっきり素振りも見せない。こうなれば、最後の手段を採るしかない。

飼主は突然、粟玉を作り始めた。むき餌100gに対し、卵黄1個を加えて粟玉を完成。

冷めるのを待ち早速、トン&ハクに与える。食いしん坊のトンがすぐやって来るが、匂いが嫌なのか食べようとしない。

仕方が無いので、殻付餌が入っている餌箱を取り出し、食べるものは粟玉だけの状態にし、半強制的に粟玉を食べる環境にする。

ハクは幼き頃食べていたので、抵抗無く食べている。そのうち、トンも食べ始めた。

匂いが気にならなくなったのかボリボリ食べ始めた。

殻付餌の餌箱を籠の中に戻してみたが、粟玉の方が気に入ったようだ。

飼主として本来ならこの時期に発情するという事態は避けたい事だったが、春になって実はオスでしたでは洒落にならないし、

新しい姫が来るまでに決着をつけなければ成らないという切羽詰った理由もあった。

飼主としては、もうトンはオスだと決めかかっている。

小鳥卸商の大将が言った「最近、文鳥のメスが少ないんだよ」の言葉が脳裏にふわっと浮かんできた。