『闘病』
9月30日(17日目) 魔の17日目。
先に死亡した北太子達は、孵化後16日17日辺りで具合が悪くなり夭逝した。
しかし里子にまだ出されず、残っっている西太子達は、元気に育っている。
特に、将来は白文鳥のなりそうな参号と四号は順調すぎるほど大きくなっている。
ところが、孵化後17日目になる五号の体調が一気に悪くなった。
北太子達と同じ様に、消化の状態が悪くなってきたのだ。
参号と四号と同じ様な環境の元、同じ餌を食べているのに一体どうした事だろう?
一番最後に産まれた仔なので、元々体質的に弱かったのかも知れない。
しかし、これ以上雛が死ぬのは見たくないので、何か良い方法は?
と考えても何も考えつかなかった。ただひとつだけ、そのうの中で固まっている様に見える粟玉をやわらかくする為と、
脱水状態にならない様にと、白湯を与える事にした。
白湯と言っても、飲ませたのはぬるま湯だ。五号はおいしそうに飲み下す。
五号のそのうは、膨れ上がっているが皮が透明なので中が見える。
北太子壱期生達の状況とは明らかに違っている。
これなら希望が持てる。花文鳥になりそうなこの仔を死なせたくはない。
10月1日(18日目)
消化の状態が良くないようなので差し餌の量を減らし、そのうに粟玉が残っている時は
白湯だけを飲ませる事にした。水分補給の効果が出てきたのか、
動きが良くなってきたように思える。北太子の時より格段に状態は良い。
夜になると尚更、そのうの中の消化状態が良くなってきたみたいだ。
白湯だけでは衰弱してしまうので、寝かせる前に粟玉を与えてみる。
小さいながら糞もするので、とにかく消化器の機能はまだ頑張って働いていると判断できた。
10月2日(19日目)
朝餉の準備をしながら観察していると、なんだか元気が無い。
病院へ連れて行って診断してもらおうかと思ったが、この日はいつもの病院が定休日だった。
この状態の雛を連れて行っても、危機を脱するような根本的な治療方法はないと思っていたし、
他の遠い病院や長時間待たされる病院に行くことは、ストレスを与えて逆効果になる可能性が高いと判断して、
明日、嫁様に連れて行ってもらうことにした。
10月3日(20日目)
嫁様に西五号を病院へ連れて行ってもらった。処置としてはそのうの中のガスを抜いてもらい、
そのうの粘膜保護の薬剤を入れてもらった。実際、北参号の実例で経験しているので効果が然程無い事は、わかっていた。
医者からは、成鳥でもこのような状態になったら回復は難しいと言われたそうだ。
今までと同じ様に白湯だけ与えていては衰弱して死んでしまうので、
餌をパウダーフード「フォーミュラーオリジナル」」(以下、「FO」)に全部切り替える事にした。
これなら栄養分が消化吸収しやすいだろう。
スポイト容器では注入しにくいので、東急ハンズへ行って1ccのシリンジを5本買って帰った。
10月4日(21日目)
朝の給餌に、FOを5cc与える。しかし、FOを与えてみてもそのうの中に大きな空気溜まりができてしまう。
この際、空気溜まりには目をつぶって、栄養の吸収だけを目標とした。
朝餉の後、朝一番で病院へ向かう。
病状が悪化した為ではなく、ベロ裏の付け根に餌のカスが張り付いて取れないのでそれを取って貰う為だった。
これが、粟玉を与えた時の「アグアグ」と咀嚼がうまく出来ない大きな原因だと思ったからだ。
診察にしてくれた先生は、その病院の院長先生だと思える人だった。
ごっつい指で嘴を開けて見た結果、これは餌のカスではなく、ただれて化膿しているとの診断だった。
治療方法として、1日2回軟膏を患部に塗りなさいとの指示と塗り薬をもらった。
夫婦の間で、どういった事が原因でこんな傷が出来たか、どちらがやったのか、
と今更言っても夫婦関係が悪くなるだけで、今更意味はない。
お互いその件については不問とし、互いに訊く事はしなかった。治って元気になれば、それで良いのだ。
FOは効果覿面だった。今までなかなか開かなかった羽軸が一気に開いてきた。
生命の維持だけ分しか吸収できなかった栄養分が、羽軸を開かせる分まで吸収出来る様になったのだ。
墜落飛行から上昇飛行に切り替わった。
10月5日(22日目)
今日の我が家は、イベントで忙しかった。
私自身は国家試験受験の為、東京まで行かなければならなかったし、残った家族は幼稚園の運動会に参加、
おまけに嫁様は父母会の役員までやっているので、幼稚園に付きっ切りになってしまった。
そんな嫁様に雛の世話を頼めるわけは無く、また、試験会場に雛を連れて行くことは、
あまりにも不謹慎だと思ったので、朝の給餌をたっぷりする事で賄おうと考えた。
参号と四号については、まったく心配はなかったが、五号だけが心配だった。
病状回復の途中にあるとはいえ、まだまだ予断は許せない。
朗報なのは体重が増えてきた事で、量ると21gになった。しかし、参号・四号に比べるとひと回り小さい。
10月6日(23日目)
くちばしの中の傷も少し小さくなって来たように思える。少し成長したのか、シリンジを喉の中に入れるのがスムーズになった。
目もパッチリ開いている。桜系だからトンの血を濃く受け継いでいるのだろう、
顔つきがハクよりトンに似ていると思うのは飼主の贔屓目なのかもしれない。
10月7日(24日目)
朝餉を始める前に雛たちをふごから取り出して座布団の上に乗せておく。
朝餉の準備の前に五号に軟膏を塗ろうとしていたら、か細い鳴声が聞こえる。
また四号が鳴いているのかと思ったが、よく聞いていると五号が本当に消え入りそうな鳴声で「ぴっぴっ」鳴いている。
今日で24日目。もう大丈夫だろう。死神は去ったのだ。