── 戸田直子 ──
昨年は新型インフルエンザのため、やむなく中止となったこの鑑賞ツアー。
今回2年越しでやっと実施することができました。当日は初夏のような好天に恵まれ、
31名の参加者は先ずは地下鉄二条城前駅コンコースに集合。そこで鑑賞スケジュールの
説明、グループ分けの発表、会費徴収を行った後、二条城へと移動しました。
今回鑑賞したのは、3000面以上の障壁画(うち954面が重要文化財)が遺されている二の丸御殿と、
展示・収蔵館。展示・収蔵館は御殿室内を再現した形で障壁画の原画を展示・収蔵するもので、
参加者からは間近でじっくり原画を見ることができてよかったという声が聞かれました。
ツアー日は「黒書院 桜の障壁画展 〜大政奉還の舞台裏〜」という展示期間中でした。
二の丸御殿に上がった参加者は、先ずその建物に強い印象を感じられた様子でした。
歩くとキュッキュッと音がなるうぐいす張りの廊下、何面もの襖に囲われた広い室内、
遠待・式台・大広間・黒書院・白書院と連なる、使用目的によって様式や雰囲気が異なる
部屋の数々… それぞれの部屋が回廊でつながっているので、見えない人にも建物の構造が
よく理解できたそうです。
お城建築の独特な空間は鑑賞にも影響したようで、グループでの会話も絵や彫刻に限定されず、
建物、庭、歴史、当時の暮らしの様子にまで及びました。
例えば「大名の控室の虎や豹の襖絵は、将軍の権威を表しているのでは?」
「白書院は居間だから、襖絵も力が入ってなくて地味な雰囲気。これってもしかしたら
女性を引き立たせるためなのでは?」「日本建築はなぜ壁で仕切らないんだろう?」
「天井画や襖の上の部分の絵には、結構モダンなデザインのものがあるけど、どうしてかなあ?
誰が描いたものなんだろう?」等々。リラックスした雰囲気の中、会話が弾んでいた様子でした。
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好天に恵まれたので、鑑賞の後の感想会は城内「桜の園」付近で行いました。
木々の緑に囲まれた戸外ということで、いつもの室内とは違う、開放感のある
感想会を楽しんでもらえたようです。
見えない・見えにくい人からの感想で多かったのが、障壁画だけではなく、
空間すべての鑑賞を楽しめたということ。「絵は演出のための装置―つまり襖絵によって、
くつろぎ、やわらぎ、権威などを演出していると感じた。」「絵や建物の説明を聞いて、
当時の暮らしを想像した。」「説明を聞いて会話することで、見えていた時より
じっくり見ることができた。」「戸外の散策も含めての鑑賞ということで、いつもの
ツアーとは違う開放的な雰囲気を楽しんだ。」「連続して描かれた一連の襖絵によって、
部屋ごとの世界観が表現されていると感じた。」等々。
一方、初参加の方の中には、「お城を楽しむことはできたけれども、言葉の説明で
絵のイメージをつかむことには、やはり難しさや限界を感じる」という感想もありました。
見える人からは初参加の方も含め、「ひとりで見ているとサ〜ッと流して見るだけに
終わるけれど、言葉にして説明することでそれが自分の中にも返ってきて、自分だけでは
考えなかったことまで考えることができた。」「見えない人から質問してもらうことで
鑑賞が深まった」「会話をしながら見るのが楽しかった。感想会で、他の方はどう
感じられたのかを聞けるのも楽しい。」「二条城はこれまでにも何度も訪れているところだが、
今日が一番印象に残る鑑賞になった。今まで自分が流して見ていたことに気付かされた。」
などの感想が多く聞かれました。
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障壁画の鑑賞と共に、二条城の存在感、歴史、建築物としての魅力、そして庭園や敷地内
の散策まで楽しんだ今回の鑑賞ツアー。「せっかく京都に拠点をおくグループなんだから、
社寺仏閣なんかの鑑賞もしてみたいね」という意見はずっと以前から出ていたのですが、
今回やっとそれが実現できました。参加された方々からのご希望もあったので、これからも
年に1回くらいはこのような企画を組んでいけたらと思います。
※二の丸御殿と収蔵館は写真撮影禁止のため、残念ながら今回は鑑賞中の写真はありません。
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