展示作品すべてを「ぜひ触ってください」という美術展「さわるアート 触覚の庭」の期間中におこなわれたワークショップ「さわるアートで何が観える?」に、私たちミュージアムアクセスビューも主催者とともに企画、運営にたずさわらせていただきました。 |
ワークショップ始まりを 待つ皆さん |
造形大学の学生さん達も鑑賞に |
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この美術展は、社会福祉法人滋賀県社会福祉事業団、アート・インパクトしが実行委員会主催でおこなわれ、美術作品は目で見て鑑賞するものという「とらわれ」を開放し、自由に触れてはじめて味わえる、それぞれの作品が表現する、さまざまな美しさやおもしろさを感じてみようという美術展でした。
この美術展は出展作家のひとりである光島貴之さん(全盲)の言葉に一つの核心を与えられて実現したものでもありました。
「障害は、障害ではなく文化だと僕は考えています。 見る文化があるなら見えない文化もある。
例えば、音、手探りの世界。 聴覚や触覚は視覚の代用ではない。 見る文化と見えない文化の出逢いが作品を生むのです。 芸術とは元来、そんな異文化の衝突と共有ではないでしょうか。」
(2001年4月信濃毎日新聞)
午前、午後、各一回ずつのワークショップへの参加者は視覚に障害のある人11名とない人23名。
3,4名ずつのグループにわかれ、見て、触って、対話してリラックスした雰囲気のなかで美術館での展覧会とはひとあじもふたあじも違った楽しい鑑賞会となりました。 |
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穏やかな癒し−西村陽平と彦根学園
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陶土のオブジェをテグスで吊り下げ、その触覚や音のイメージの世界に遊ぶ。 |
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作品総数は13点、素材も木、粘土、ステンレス、布などさまざまな立体作品、平面に線が浮き上がった触覚絵画、音のでる作品、上からテグスでぶらさげられたちいさな陶芸品のゆらめきのなかを歩いていくスペースなど、展示品は国内外の現代アート作家や、盲学校の生徒などの作品です。
ミュージアムアクセスビューのメンバー光島貴之さんの触覚絵画も幅8メートル、高さ2メートルの大壁面に展示され、ワークショップにも参加されていたので、直接ご自身の作品についてお話しを聞いているひともありました。
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身体のイメージII−顔と手の対話−作・光島貴之"
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光島さんは、製図用テープを紙に貼り付けるという技法で絵を描かれています。
友人の顔を触らせてもらい、声を録音して、その顔のイメージを絵にしたり、また声のイメージを抽象的な絵で表現した作品などがありました。
作品はどれもとても軽やかでシンプルな線で構成されているのに、顔の表面に滲みでている人間の内奥が独特のタッチで描かれているように思えました。 |
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視覚に障害のある参加者がパネルに浮き上がったひとつひとつの顔の作品に丁寧に触れ、自分の好きな顔の作品を見つけてじっくり楽しんでいる姿もありました。
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鑑賞中のご主人を待つ盲導犬 |
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くにゃ−田中 薫 |
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多くのひとびとを驚かせたのはステンレス素材のゆがんだ輪の形の作品で、手で持ちあげたとたん、形がぐにゃりと幾通りかに変化し、硬く冷たいイメージとの落差にその意外性がとても印象に残ったという感想も聞かれました。
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盲学校の生徒たちが作った陶芸作品は、手触り、見た目そのどちらにも表現しがたい存在感を感じていたところ、「風のように」と名付けられた作品のタイトルを、目の不自由なひとが手で触れた自分のイメージから言い当てられ、驚かされた場面もありました。
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マイクのついた鳥 −わかな ひろよし (当時千葉盲学校小学1年)
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風のように −みその まさみつ (当時千葉盲学校小学5年)
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鳥をモチーフにした作品では、「目が見えないとね、鳥が空を飛んでいる姿がどんなものかよくわからない
んだよ。」とおっしゃった言葉も印象に残りました。 |
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ジャングルジムというタイトルの作品は、長いひも状の粘土を複雑に絡み合わせた陶芸作品でした。
ジャングルジム−辻 佐都子(彦根学園) |
目の見えるひとはどんな大きなものでも、先ずその形や構造の全体像を視覚的にとらえてイメージを作るが、触覚でもののイメージをとらえるひとは実際にジャングルジムに登ってみて、多方向に広がった棒をひとつづつ握ったり、足をかけたりしながらを身体全体を使ってイメージを作り上げていくということがよくわかった。視覚的にとらえたものと、筋肉を使って立体的にとらえたイメージの違いや、ものの全体ではなく実際に触れた部分だけをとらえたイメージの存在を発見したと感想を述べたひともいました。 |
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抽象的な作品では、これは何を表わしているんだろうとそれぞれが持ったイメージを語る楽しさもありました。
また、「物語を作ってみてください。」と書かれたブロンズ像の前で即興で物語を作って語り合ったりもしました。 |
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高温で焼かれた曲がった手の指のような陶土をたくさん結びつけたテグスをのれんのようにぶら下げた「音のカーテン」と名付けられた作品はそのテグスたちをそっと指で揺らすと、シャラララととても透明感のあるきれいな音がしました。 |
音のカーテン 高野昌昭と「もみじ寮」「あざみ寮」 |
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そして、そのカーテンをくぐってみると、直接耳にその音が響き、耳の奥がぱっとひらかれたような、なんとも言えない心地よさを感じたと語ったひともありました。 |
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鑑賞の後、みんなで集まり感想などを語り合いました。
手で触れて作品を鑑賞することを本当にごく自然に楽しめたという声が多く聞かれました。また、ひとりではなくだれかといっしょに、視覚に障害のあるひと、ないひとそれぞれが、同じ作品をから感じ取ったものを自由に話すことによって、自分のなかに新しいイメージが生まれ、広がっていくことの楽しさも味わうことができたようです。
このような美術展はぜひこれからもまたいろんなところで開催してほしいと言う声も多く聞かれました。
「さわるアート 触覚の庭」ワークショップ感想ページへ
このページの写真は、ワークショップ以外の写真も含まれています。 滋賀県社会福祉事業団さまからも写真提供のご協力をいただきました。
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