── 鳥養庸子報告 ──
爽やかな秋晴れの下でアートピクニックを!という計画もむなしく当日はあいにくの雨模様。。。
でも、雨の植物園はしっとりと静かなたたずまいで私たちをあたたかく迎え入れてくれました。
頼りなげに揺れるコスモス、元気いっぱいのマリーゴールドなど季節の花々が彩りを添える花壇の他、広大な敷地には林や、噴水、洋風庭園、大芝生地など次々に繰り広げられる風景が。 |
花壇の中の彫刻の前で |
木々の間を流れる小川 |
水琴窟の音を聴く | |
また、清々しい木の香り、やさしいキンモクセイの匂い、小鳥たちのさえずり、靴底に伝わる落ち葉のやわらかさなどお互いに感じたことを伝え合い、植物園の魅力もいっぱい体感。
はじめての参加者、常連の参加者も交え、総勢28名が8グループに分かれて園内を自由散策しながら、ちょうど開催中の野外彫刻展を鑑賞しました。
先ず、北門から入ったところには人工の浅い直線的な水の流れのなかに展示された作品たち。水の力を利用してシーソーのように動く作品をどうなっているんだろう?と話していると、一般の来場者が話しかけてこられ、ともに作品について語り合う場面も。これも野外の自由な雰囲気ならではの光景でしょうか。 |
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園内をさらに進んでしばらく歩くと、いくつかの抽象的な作品や人物像など。それぞれの作家たちが自分がお気に入りの場所に、その風景に触発されながら作品を制作、展示しているそう。
大きな温室の横の明るい花壇のそばには、「ほっぺに・・・」と名付けられたあどけない少女像が。そっとほっぺを触ってみると「まんまるでやわらかく、本当にチュ−をしたくなるような手触り。」生まれてはじめて彫刻に触れた参加者は「あの感触が心に残っている。もっともっと彫刻を触ってみたくなった。」とか。
大きな木々の足元には、ステンレスでできた、正方形の枠を交差させた立体がふたつ。シンプルだけれどなんだか不思議。
「SIMILAR FIGURE OF HEX」という作品を最初は何気なく観ていたけれど、「ん? あれ形が変わった〜! 正方形が星型になった!」と作品の周りを歩きながら観ることで、その形が変化していくことに驚きの声が。
「何だか鏡みたいに周りの樹が写ってるよ」と気づき「離れてみたり近づいてみたり、ぐるりと回れると楽しいね」と作品との距離を自由に選択できることでより一層、作品に親近感を覚えたのでした。
作品のなかには自然と相反するような凄みのあるものも。「仮・凶々しくはしゃぎながら静かにやってくる」というタイトル。
ところどころが錆び、焼け溶けた部分のある鉄のいびつな長方形の箱。ちょうど公衆トイレのような大きさだという意見も。その箱からは膝を曲げ真っ赤なハイヒールを履いた素足が飛び出し、正面には何かに驚いたように口を開けた顔が。箱の右下には巨大なぼろぼろのスニーカー。白塗りの顔以外は、すべて鉄。
一瞬、ことばを失った私たちの反応をすばやくキャッチし、「ねえねえ、どんな作品なの? どんな感じがするの?」と私たちが強烈なインパクトにひるんだことに見えない人がたいへん興味をもたれた場面も。
出展作家のおひとりであるノブコウエダさんも参加され、ともに鑑賞してくださいました。
ご自身の作品のタイトルは「森の朝」。
林のなかの少し開かれたスペースに佇む、周囲の木々に美しく溶け込んだ作品。やわらかな銀色の葉っぱが何本も挿されたチョークのように白い一本の木。その木を中心に円形に取り囲む、小さな家々と銀色の双葉。
冬の真っ白な雪景色のなかに置くとすごく似合うんじゃないかなあという声や、真っ暗な木々の中でぼうっとライトアップされていたらきれいだろうね・・・!という感想も。
一見、メルヘンチックな世界でしたが、「いや、この作品はもっと深い」「神聖で透明な感じ」という意見も。御影石で作られた家によく近づいて見ると、漢文が書かれた古文書のようなものが貼られていて。。。ノブコウエダさんから「破壊された古いものから生まれる新しい力、朽ち果てたものから芽生える希望やいのちをテーマにしている」ということばを聞き、一同、さらに納得!
雨のためティータイムは園内にある建物のなかで。 お菓子とお茶でほっこりしながら、各テーブルでフリートークタイム。
「作品につけられたタイトルは謎めいたものが多く、タイトルの意味について語り合うのが楽しかった。」とか「自然のなかに置かれた作品たちは時間や天気などにより自然と一体となって刻々と変化していくことに壮大さを感じた。」「私はこれまで音楽という表現方法に親しんできたけれど、彫刻だけではなくもっと他の美術作品などいろいろな表現について知ってみたい。」「普段は作品を見ても自問自答しているだけだがいろいろな質問や反応を受け取りながら自分が見逃しているものに気づいたり、導かれていくような気がした。」という感想も。
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また、ミュージアムアクセスビューならではの鑑賞の楽しさは「美術作品を一度ことばに表現し直したものを聞き、それをまた美術作品として自分のなかで置き換えてみるのが興味深い。」「誰かとことばを通して鑑賞しながら作品のなかにより深く入りこんでいけるのが楽しい、そしていつも最後にいろんなことばをまとめるのが見えない人や見えにくい人なのがおもしろい。」
今後の希望は「前に行った二条城はとても楽しかった。京都には美術館だけではなく歴史ある建物や庭や空間そのものが美しいものがたくさんある。京都ならではの場所をもっと訪れてみたい。」「今回も香りや音や周囲の何気ない気配などふだんつい気づかずに過ごしてしまうものも楽しむことができた。見えない人が感じたものを分かち合えるような企画もあればいいのでは。」という意見も。
最後にノブコウエダさんからは、今回私たちと鑑賞し、「見えない人は実際に作品に手で触れてみないと鑑賞できないと思い込んでいたが、語り合って鑑賞することで、ただ目で見るということと見る力というのは全然ちがうものだということに気づかされた。見る力の可能性を知り感銘を受けた。」と語られました。
建物の外に出るともうあたりは暗くなりかけ、雨脚も激しくなってあわてて家路に急ぎました。 木々や花々、彫刻、小鳥や虫たちの住む世界にそっとありがとうと別れを告げながら。 |