── 鈴木ともこ報告 ──
今回で2回目の銅版画ワークショップ。前回、参加者のみなさんに大好評だった為、
再度版画家の岸中さんに講師をお願いすることとなりました!
前回と違う点は、見えない人見えにくい人と見える人、二人のコラボレーションで一枚の銅版画を
制作するというところ。お互いに意見を出し合い、描き込みながら作品を作っていきます。
そして、制作にあたってのテーマは「旅」でした。
「旅」というのは、人によってそれに向かう心構えも、出発してからの過ごし方も、また思い出の持ち方も
違うもの。そこで、参加者のみなさんの「旅」話を披露してもらうことから始まりました。
例えば…列車で会った女の人が印象的だったこととか、東京の下町の店の人との交流が嬉しかったとか、
日本ならほぼ全県に行った方もタイの国の旅の思い出を話された方もありました。
みなさん、話しをした旅以外にもたくさん旅をしているのでしょうが、その中から自分なりに選んで話しを
されている。それが、きっと自分の旅には欠かせないような、気に入った場面があったからなのだと思うと、
その人の一面を垣間みることができたようで興味深く聞いてしまいました。
みなさんのエピソードを聞いた後は、パートナーとまた更に旅の話しで盛り上がり、
少し落ち着いたところで銅板にいよいよ二人のイメージを描き込んでいきます。
今回も銅版画の技法としてはドライポイント。銅板に直接ニードルで引っ掻いて絵を描いていきます。 |
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ドライポイントの詳しい技法説明は前年の報告書を読んでいただくことにして…各ペアごとにどんな風に
描き上げていくのか?と見ていると、先ほどのエピソードを中心に出て来たキーワードのものを
まずは描いてみて、そこから思い起こしたことやイメージの形を線にしていっているようでした。
交互に描いているグループ有り、最初に全体の構想を立ててから描き込んでいるグループ有り。
かなり悩んで描き出しがゆっくりだったところもあります。
見えない人見えにくい人の参加者は前年にも参加された方ばかりで、道具の使い方には慣れたもの!?
とまどいが少なかったようで、こんな線を表したい時はこの道具!と、さっと決められているように
感じました。
ほとんどのグループが仕上がってきたところで、版の刷りに入ります。
岸中さんのデモンストレーションを見聞きし、順番に刷っていきます。
銅版画の最も楽しいところは、プレス機の大きなハンドルを回し、版の上に載せた紙を
そーっと開く時のどきどき感です。
版のままではよくわからなかった刷り上がりの絵を
その一瞬に見ることができます。また、おーっという周りの声が聞こえます。
きっとこの一瞬が
あるからこそ、版画は誰にとっても魅力的なのでしょう。
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全員が刷り上がったところで今回の作品の鑑賞会が始まりました。壁に絵を貼って、一作品ずつ、
どんな印象の絵なのか参加者の方々の言葉を聞きます。作者の意図は置いておいて、絵から感じたことを
思い思いに喋っていくと、同じ絵でも、見る人によって捉え方、感じ方が違うことがわかります。
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「へ〜っ、そんな見方もあるのね〜」と驚く場合も多々。”違い”を知ることでより一層、作品への関心や
作者や鑑賞者への関心が大きくなり、いろんな気づきがあっておもしろい!
描いた本人がいるので鑑賞の後に、どのような想いで描いたのかも、もちろん話してもらいました。
船旅をイメージして港や波を描き、着いたところが古びた街やスナックバーのある温泉と
ちょっとノスタルジックな旅の絵や線路を中心にそれぞれの旅の思い出をクロスさせながら描いた
という作品も。また、ペアの二人共に行ったことのある土地の風景を情緒豊かに描いたものもありました。
ドライポイント技法での絵は引っ掻いた線の強弱やインクの詰め具合によっての滲みが、絵に更に表情を
加えます。「旅」はその人の記憶の中でやわらかく霞をかけたようなところにある気がします。
だからこそ「旅」はドライポイントにぴったりのテーマだな〜と一人納得してしまいました。
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降矢・松原チーム 「道」 |
山川・ウエダチーム 「山銀座をさまよう」 |
光島・熊本チーム 「帰らない旅」 |
宮沢・三好チーム 「上高地」 |
白坂・脇田チーム 「マンダリンの旅」 | |
最後に、今年度のビューの創作ワークショップは、見えない人見えにくい人と見える人のペアで
コラボレーションの作品づくりを行ってきました。
3回行われた中で、私は1回目は参加者として、2回目は講師として、3回目はスタッフとして
携わってきました。
どの回でも、感じたのは「作品を作る」ということに対する気持ちが重なり、その場と時間が
濃密になるということでした。
今までアートというと、どちらかといえば個人のものという感覚が強かったと思いますが、
これからはどんどんこのような時間空間が大切になってくるのではないかと思います。
「表現」には音楽もスポーツもありますが、誰かと共に演奏や競技をし、観客がその時間空間にいる。
アートでもそれが可能でまた楽しめるものであるとわかれば、もっと多くの人の表現方法のひとつに
なっていくであろうし、更に人と人をつなぐ場づくりにもなると確信しました。
自分がアートに関わる者として大切なことを得たように感じています。
これからも!ビューのワークショップはみんなで楽しめるものを!目指します。 |