第29回鑑賞ツアー「モホイ=ナジ/イン・モーション」展
 
 


2011年8月21日(日)
場所 京都国立近代美術館
参加者 見えない人・見えにくい人 : 10名
見える人 : 13名
ビュースタッフ : 8名

── 中山登美子報告 ──

最初の説明  今回の鑑賞ツアーはモホイ=ナジを選びましたが、ナジがなんでもありのマルチ・アーティスト&メディア・アーティストゆえ、案内文の作成段階から、ナジの創作人生と300点もの作品群をどう簡単に解りやすく案内すればいいのか、とても悩みました。まさしく、展覧会のサブタイトルにある"視覚の実験室"です。
 試行錯誤してのアプローチは、ナジが創造した20世紀芸術に、新しい技術的発明を応用したメディア・アートの向こう側にあるオーラを感じていただけたらとの趣旨へと変えました。
 鑑賞ツアー前には講堂でモホイ=ナジの名前の由来や、案内文にあったバウハウス、タイポグラフィーなどの用語を少し説明し、その後、事前にビューのスタッフが目録から選んで作成した点図3つを持って、1時間半ツアーを開始しました。
 点図3つの作品タイトルは「三角形のスケッチ」「抽象的コンポジション」「LX」で、丸と三角と四角の基本形と、これらを変形させたデザインで構成されたものです。
 ビューが2年前の夏に開催したお絵描きワークショップ、「まる・さんかく・しかくで私を描く」の内容と重なった点図だったので、鑑賞にとても役立ちました。

写真鑑賞  会場は、ナジが彼の人生において訪れた国別に順(ブダペストーベルリンーワイマールーデッサウーベルリンーロンドンーシカゴ)に展示され、参加者たちはこの分け方により、一つ一つの作品を観るより、一つのボリューム作品を五感でまとめようと工夫されてるグループもいました。
 写真作品の多くは、カメラを用いずに印画紙の上に直接物を置いて感光させるフォトグラムのものが多く、これらの外界の流れるような振動する光の現象を、ある人が’夜空から流れ星が大量に墜ちてくるイメージ’と上手に伝えてました。

 キネチック彫刻の作品、電気舞台の照明装置<ライト・スペース・モデュレーター>は、金属とガラスで作られ、30分間に1回、2分間だけ無機質な機械音とともに回転運動をして各部分と彫刻が独立に動き、そこに光が当たるとその反射と影によって見え方が変わる面白さ。
この作品は参加者たちの間でとても人気が高く、"チャップリンの映画<モダン・タイムス>の中に出てくる機械と似ている"とはしゃぐ一声! 創作年代は偶然にどちらも1930年代です。
チャップリンは手と機械テクノロジーとの結びつきを皮肉って批判しましたが、ナジは逆に明らかに賛美してます。
ライト・スペース・モデュレーター1 ライト・スペース・モデュレーター2
ライト・スペース・モデュレーター3 ライト・スペース・モデュレーター4
 映画作品は一つを除いて5つが無声なので、観るコーナーは誰もが沈黙し、これらの作品を目の見えない人たちにどう伝えていいのか困ってる様子でした。
 「新建築とロンドンの動物園」はキリンが喜んで走り回ったりペンギンがよちよち歩きしてる風景なので、ある人は目の見えない人の手や背中に文字を書いてました。
 一つのグループは3人とも手話伝達ができるので手まねで会話してました。
 「ロブスターの一生」だけは有声で、ロブスターの捕獲からテーブルに並ぶロブスター料理までのユーモラスな作品。 楽しいにぎやかな笑い声が聞こえてきました。

 最後に感想会における参加者の発言を紹介します。
感想会
 「子供がまるで段ボールを作るような世界」「○△□の形のコラージュ」「コマーシャルデザインっぽい」「アートと技術の融合」「工場の風景作品は勤務の終了時刻のサイレン音が聞こえてきた」「ベルリンで撮影された映画<大都会のジプシー>が好きだった」「新しいメディアではしゃいでいる」など率直な感想が述べられました。
 みなさん、メディア・ワンダーランドふうの愉しさを堪能されたようです。
 みなさんとご一緒できた真夏の午後の刺激あるひととき、ありがとうございました。
 今後のミュージアム・アクセス・ビューの案内企画にもどうぞご期待ください。
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