第30回鑑賞ツアー「白沙村荘まるごと鑑賞ツアー」
 
 


2011年10月2日(日)
場所 白沙村荘 橋本関雪記念館
参加者 見えない人・見えにくい人 : 7名
見える人 : 8名
ビュースタッフ : 7名

── 戸田直子報告 ──

 ビューでは、いつもの美術館での鑑賞ツアーとは少し趣の異なる企画を、不定期に組み込んで実施しています。 昨年度は「二条城・ふすま絵めぐり」。さて、今年はどこへ行こうか…最初の説明 5月頃からいくつかの候補地が上がった 中で、コーディネーター2人で検討し、決まったのが、大正・昭和の京都画壇で活躍した日本画家、橋本関雪の 邸宅であった白沙村荘でした。銀閣寺、哲学の道という観光名所のすぐ傍にありながら、まさに知る人ぞ知るという 隠れた名所であるため、観光客が少なくゆっくり鑑賞できそうであること、絵画作品だけではなく、歴史を 感じさせる建物、お庭、石塔や石仏などの石造美術など、敷地内の様々な要素を楽しめるだろうということが 決定の理由ですが、ともかく下見に訪れた時に自分たちが楽しめたという満足感が、決定の大きな要因になったと 思います。

 秋晴れのお天気に恵まれた当日、午後1時半に集合して、北門入ってすぐの供待(ともまち)で、スケジュール説明、鑑賞に当たっての注意事項確認、グループ分けなどをし、記念館の副館長・橋本眞次さんに白沙村荘について簡単に説明をして頂きました。また「鑑賞中もその辺りにいて質問があればお答えするので、声をかけて下さい」と言って頂き、7グループに分かれて鑑賞がスタートしました。
存古楼(ぞんころう)前で 石塔を見る
石仏 石舞台前で
 参加された皆さん、今回の鑑賞ではお庭の印象が大きかったようです。外の賑わいが嘘のような敷地内の静けさ、木々の間から洩れる柔らかな木漏れ日、さわさわと吹き抜ける優しい風。木々やお花の間には、関雪が全国各地の社寺から集めたたくさんの石造美術、石塔や板仏、石仏や羅漢、石舞台や石灯篭などが散りばめられていて、お庭に味わいや楽しさをプラスしていたように思います。関雪は「画を描くことも、庭を造ることも、私にとっては一如不二のことであった。」と記していたそうですが、まさにそういうことが感じられるお庭でした。 「以下は、お庭を巡っている間に聞こえてきた会話の一部です。

「水の流れる音がいいですね。前に来た時にはどうして気づかなかったのかなあ。そうだ!その時は雨が降ってたから気がつかなかったんだ!」と見えない人。

竹林の羅漢さん 「竹やぶの中にたくさんの石仏があるんですが、のけぞって笑ってたり、情けなさそうな表情してたり、すごく表情が豊かで面白いんです。」「なんだか、みんなで会話してるみたいな雰囲気」「これ、羅漢さんらしいけど、羅漢さんってどういう人のことを言うんだったかなあ?」「まだ修行中の人じゃなかった?」「向こうの方に、こちらに背を向けて一人でぽつんと座ってる石仏があるんだけど、仲間はずれにされてすねてるみたいに見える。」(見えない人も触って鑑賞)

石灯籠 「石灯籠も少しずつ形が違いますね。こういうのはいつ頃からお庭に置かれるように なったんですか?」「もともとは社寺で使われるものでしたが、お庭に置くようになったのは秀吉の時代から。千利休がお茶室の周りに置いたんです。」(お庭を専門的に勉強されてる参加者がいたグループ)

瑞米山(ずいべんさん)前で  敷地の中には建物が点在していて、入ってすぐのところにある「瑞米山(ずいべんさん)」は白沙村荘の主家であり、現在も橋本家の方々が住まわれているそうです。中へは予約した人しか入れないのですが、間口の広い格子戸の玄関はとても広々としていて、家の奥行きが感じられる風格ある佇まいでした。副館長さんに「瑞米山」の意味をお尋ねすると、関雪が名付けたこの屋敷の名称で、奥様のお名前「米(よね)」からつけられたのだとか。奥様への愛情が感じられるエピソードでした。

 もう1つの大きな建物が「存古楼(ぞんころう)」。ここは関雪が官展への出品作を描いた大画室で、芙蓉池という大きな池に面した開放的な建物です。ここは中へ入ることができるのですが、絵を描くための自然光を取り込むために大きなガラス戸で囲われていて、庭の景色が一望できるという何とも素晴らしい画室です。ちょうど「生々流転」という六曲一双屏風が展示されていました。海とカモメを描いたこの作品、見えない参加者のお一人は、「関雪のふるさとの海を描いた作品なのでは?」と感じたそうです。
茅葺の門 持仏堂へ
 他にも茅葺の小さな門、待ち合いとして使われていた問魚亭(もんぎょてい)、持仏堂(じぶつどう)などを見ながら、奥にある展示室へ。ここには関雪の作品、スケッチ、下絵、そして彼が集めた陶器、古美術コレクションなどが展示されています。グループごとに、それぞれ興味を感じた作品の前で会話が弾んでいましたが、副館長さんが関西弁で解説(?)して下さったこともあり、漢詩が書かれた「赤壁賦」というタイトルの大きな屏風は注目を集めていたようです。これは六曲一双が2つ並んで1つの作品になっている、とても横長な作品。左面には絵の情景を説明する賦(漢詩)が書かれているのですが、その上の方にぽつんと月の絵が。右面にはお酒を呑みながら舟から月を眺める3人の人物と船頭が描かれていて、舟と月の間の贅沢な余白が、現実世界の広がりを感じさせて、なんともゆったりとスケールの大きな作品でした。最初、鑑賞していた人達は「舟に乗った人たち、一人は後ろを振り向くような姿勢をしてるけど、何を見てるのかなあ?」と、あまりにも余白が広いために月が全く目に入らなかった様子。副館長さんが難しい漢詩を分かりやすいように関西弁で解説して下さったのを聞いて、初めて遠く離れたところに描かれた月を発見して、その空間の使い方に驚いた様子でした。
感想会1 感想会2 感想会3
 鑑賞の後、敷地内にあるレストランNOANOA(ノアノア)の2階の部屋をお借りして、お茶を飲みながら感想会を行いました。感想からは、まるで別世界のような空間の中で、関雪の作品・こだわり・あそび心、白沙村荘の空気、音、香りなど、まさに「まるごと鑑賞」を楽しんだ様子が感じられました。1つ気になったのは、見えない参加者から出された庭の構図についての質問。確かに見えない人はポイントポイントでの鑑賞は楽しめても、曲がりくねった庭内の道すじをぐるぐると辿っていると、それぞれの箇所の位置関係、方角、全体の構図は掴みにくかっただろうなあと思います。やはり簡単でもいいので、構内図の点図を作ってもらったらよかったかなあと思いました。

 感想会の中でも出ていましたが、今回の鑑賞ツアーにあたって、白沙村荘のスタッフの方々には事前ミーティングや感想会のための会場の段取り、鑑賞を始める前の説明、鑑賞中のガイドなどにおいていろいろお世話になり、お陰さまでリラックスした雰囲気の中で、スムーズに楽しく鑑賞することができました。 また会場へのアクセスが分かりにくいのではないかとの心配も杞憂に終わり、予定通りにツアーを進めることができました。今後もこういうタイプのツアーをうまく組み込んでいけたらと思います。
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