Word of magic that brings luck


 

「交通事故」 

 

実はね、おばあさんに出会ってから今に至るまで、二回交通事故を起こしているんです。

恥ずかしい話なんですけどね。一回目は学生時代。豊橋でおばあさんをバイクではねちゃったんです。(イスラエルのおぱあさんではないですよ。日本人のおぱあさんをね。)

僕がスクーターに乗っているとき、道を横切ろうとしたおぱあさんにちょっとぶつかり、おぱあさん、道脇に勢いよく倒れましてね。でもその時、自然と「ありがとう」という言葉が出たんですね。信じられないでしょう。後々、自分でも大したもんだなあと思いましたね。
「お、おぱあさん、大丈夫?」
おぱあさんはムクッと立ち上がり、しりもついたお尻をさすりながら、やがてやって来た救急車に誰の手も借りず、ヨイショと白ら乗り込みました。救急隊の方々は、そんなおぱあさんを見て苦笑いしていましたね。おばあさんは、病院へ運ぱれて検査を受けましたが、結局どこも異常なく、僕自身ホッとしました。

この縁がきっかけで、以後おぱあさんの家とは家族ぐるみのお付き合いをするようになりました。おばあさんの家はお茶をつくっている農家でして、僕は学生だったものですから、お茶摘みの時期になると、必ず手伝いに行きましてね。おばあさん、たくさんアルバイト料をくれるんですよ。二、三時間お手伝いしただけなのに一万円くらい頂きましたね。僕なんか全然お金がなかったですから、ラッキー、ラッキーという感じでしたね。
それから、中学生のお孫さんの家庭教師もやりましたね。その男の子、登校拒否でして、ずっと学校に行っていなかったんですよ。でも立ち直ってくれて、とっても嬉しかったですよね。おぱあさんも大喜びでした。今では彼は大学を出て立派な杜会人。
あっ、そういえぱ、僕の結婚披露宴のときなんか、そのおばあさん、自ら進んで趣味の太鼓を叩いてくれたんですよ。三河太鼓といってね。あれは見事でしたね。本当に素晴らしかった。バイクでひいたおぱあさんに、まさか白分の披露宴で太鼓を叩いてもらうなんてね。信じられます?
それから、会杜に就職してからのことですが、車で正面衝突をしてしまいました。

僕はカローラに乗っていたんですが、前から若い奥さんの運転するルシーダが僕の車線にいきなり入って来たんですよ。すれ違う直前でした。僕としてはど〜することもできない。モロにガチャ〜ンと正面衝突!僕の車線に入り込んでからぶつかる瞬間まで、その奥さんは前を見て運転できていませんでした。どうやら、後部座席の三歳くらいの娘さんに気を取られたようですね。お互いの車の前方はグジャグジャになってしまいました。
でも、その時も、ぶつかる瞬間「ありがとう!」と大声で言えたんですね。するとね、妙に心が落ち着き、全然怒りが出てこないのですよ。普通でしたら「このヤロー、人の車線に勝手に入って来やがって、どこ見て運転してるんだ!」とか何とか言って怒るじゃないですか。それが、不思議と怒る気分にならなくて、むしろ相手の体が心配になって、「大丈夫ですか?」と声をかけたんですね。
「あれ、娘さん、口元を少し切ってるね。大丈夫かなあ。直ぐ病院に連れて行こうか」
という具合でしたね。そうすると、その奥さんが、「す、すみません、私の不注意で。すみません。すみません」
「しょうがないよ。別にわざとやったんじやないのだから」
なんて言葉が自然に僕の口元から出てくるんですね。
その後、すぐにご主人とおじいさんが飛んで来て「すいません、すいません」と頭を何度も下げられました。お互いケガがなかつたし、全然怒る気分になりませんでした。まあ、普通でしたら、事故に関わるとお互いムキになって白分の正当性を主張し合い、そのためにうそも平気で言ったりして、人間の一番イヤな面が出やすいですよね。やれ保険だの、示談だの。おまえが悪いからもっとカネ払えとか。人間のドロドロした部分が思いっきり出て、お互いイヤな思いをすることが多いですよね。もし、事故直後、僕がその女性を怒鳴っていたらどうなっていたでしょうか?もしかすると、交通事故にありがちなドロドロ劇の始まりでしょうね。どうしても、そうなっちゃうんです。言葉って怖いですよね。
こんな衝撃的な事故がきっかけでその家族と知り合え、実は今でも家族ぐるみのお付き合いが続いています。彼女のご主人は、ある有名なコンビニの大幹部でしてね。そのコンビニの幹部研修会が定期的にあるんですけど、その外部講師として僕が毎回呼ばれるようになったんですね。人の出会いとは不思議なもんですね。
まぁ、つまらない例でしたけど、やはり、口から発する言葉のエネルギーというのはスゴイな〜と実感しましたね。
ところで、先ほど箱の話をしましたよね。あの話がつじつまの合う首尾一貫した話だとすると、一つだけどうしても分からないことがあるんですね。最初に開けた箱が空だったでしょう。「開けたら分かるわよ」とおぱあさんが言ったのに、分からないんですね。ず〜っと考えていたのですが。でもある時、分かったんですよ。空の意味が。これからちょっとの間、その話をさせて頂きますね。

 


不良少女の家庭教師 に続く

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