―――――――――― 前編 ――――――――――




♪・・・♪♪・・・♪♪♪・・・・♪・・・・

「いい音ね。オルゴール?」
トールは、声の主を振り返った。
「ミリアリア・・・・。」
トールは、穏やかに微笑んだ。
トールに向けられた無邪気な笑顔が罪なほどに可愛く思われる。
「オルゴールってさ、凄いだろう?単純な作りなのに、これだけのものを作り上げるんだ。」
「そうね・・・・。」
トールのそばにある、小ぶりの綺麗に装飾してあるオルゴールを眺めた。
「綺麗な音だ。・・・・アークエンジェルの艦には似合わないけど・・・。」

アークエンジェルのエンジン音が規則正しい。他は、無重力で何もない為これといった音もない。
ただ、実に不似合いな美しいオルゴールの音が響いていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・。


操縦室が騒がしくなってきた。・・・・おおかた、ザフトでも現れたのだろう。
怯えるミリアリアを抱き締めながら、案外冷静に状況を察知していた。

俺は戦争なんか大嫌いだ。
最初は、一時的なものだと思っていた。
コーディネイターも、ナチュラルも、きっと分かり合える。
戦争は、すぐに終わるって。


・・・・・・でも、もう慣れた。
戦争をしている事に慣れた。
いつからだろうか。
俺の大切な友達の、・・・・キラの悲惨な姿を見てからだろうか。
戦争は嫌いだ。
けど、だからって平和を唱えて逃げる事が正義じゃない。
それに気付いたのは、戦場に向かうキラの姿がかっこよく、そして寂しく見えたからかもしれない。





キラ達の活躍のおかげで、ようやくザフトをふりきる事ができた後、トールは呟いた。
「キラは、凄いな・・・・。」
「うん・・・。強いね。」
しばらく、トールは何も言わなかった。
30秒ほどの沈黙。
下を向いたトールは、床を濡らしてしまった。
「・・・・ぅうっ俺は・・・・っ俺はなんて情けないんだ・・・・っっ!」
「トール、そんな事ないわ。」
「俺は誰も守れない・・・・君を守れない・・・・っ・・・・戦争で傷ついたキラを慰めてやる事も出来ない。あいつを悲痛な運命から救ってやれない。コーディネイターなのに・・・同胞を殺させているのに・・・・!!!」


「トール!」


入り口で、キラの声が響いた。
「キラ・・・・・!」
急いで零れ落ちる涙を拭う。

しかし、涙は止まってくれない。
・・・・自分の体さえ、思い通りに扱えないなんて、と思う。
「トールが苦しむ事ないんだよ。僕はただ、皆を守りたいし早く戦争が終わって欲しいから・・・」
「けど!」
トールの声が室内に響く。
「けど・・・。向こうに、ザフトにも友達がいるんだろ!?」

「え・・・・?」
ミリアリアの呆然とした声が響く。

「トール、どうして・・・・。」
「何言ってんだよ。いつも一緒にいる友達だろ。」

キラは、言葉が続かなかった。
トールは知ってた。僕が・・・・心のどこかで君を裏切っていた事を。アスランのもとに行きたいと・・・・・願っていた事を。


「ずっと悩んでいたんだよな。しんどいよな。俺たちのせいで・・・・。ごめん・・・!」
「謝らないで!トールは悪くない。」
トールは下を向いたままだった。キラの顔を見る事が出来なかった。
それはキラも同じだった。
ミリアリアはそんな2人を見て悲しかった。
キラがコーディネイターであろうと、キラはキラなのに。
トールは優しい人なのに。

2人が泣いてる。

「おかしいよね。ナチュラルはコーディネイターを非難するけど、目の前にいるキラはとても良い人。」
「ミリアリア・・・・ありがとう。」
キラは無理矢理にでも、微笑した。
「ごめんね・・・・戦争をさせて。」
戦いたくないのは、皆一緒なのに。
「ミリアリア?・・・・そんな事。」


キラは、あらためて自分を責めた。
トールもミリアリアも、僕の事を思ってくれている。
コーディネイターなのに、大切な友達だって言ってくれた。
でも。
僕には会いたい人がいる。
君たち以外に。           よりによって、ザフトに。
僕は、本当は行きたいと思っているんだよ。
アスラン   君のもとに。
ごめん・・・・ごめん。本当にごめん。
今僕のそばにいてくれるのは君達なんだ。
だから・・・・。

「でも・・・いつまで続くのかしら、こんな戦い。」
ミリアリアが不安げに呟く。
「大丈夫だよ。僕が皆を守るから。」
だから。
僕が君達を守る。
例え戦いが悲惨な結果になろうと、それがアスランと僕の運命。
仕方のない事、そう思うしかないよ。





トールは顔を上げ、キラの目を真っ直ぐに見た。

「キラ・・・・俺も、戦うよ。」

「「え?」」

キラとミリアリアの声がハモッた。
驚きっていうか、心配です。





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