「トール?」 キラは我が耳を疑った。 「キラと同じようにモビルスーツには乗れないかもしれない。でも、俺は戦いたい。」 「トール・・・・・・。」 言いようのない想いが、キラの胸に込み上げてきた。 ごめん。 ごめん、アスラン。 君に会いたいだなんて。 君を好きだなんて 言えない。 スカイグラスパーなら、トールでも乗れると判明した。 今はまだザフトの来襲はない。 キラの目の前には、トールが乗る為の、今にも飛び立ちそうなスカイグラスパーが静かに存在している。 「・・・・・。」 「坊主、どうかしたか?」 マードック軍曹。地味キャラでおっさんだが整備の腕は確か、とキラは記憶している。 「あ・・・・いえ・・・・・。」 キラは少し俯いて45°の角度に視線を落とした。 「トールも戦うんですね。」 すぐにスカイグラスパーに視線を戻して「無表情」な声で呟いたキラに、軍曹はたじろいだ。 「ま、まぁこんな状況だからな。」 やりきれないのは、皆変わらないのだ。 キラはそれ以上何も言わなかった。 ただ、心の中で。 神様、もしいるのなら もう少しだけこの瞬間を。 カチャ、カチャ・・・・。 「何してるの?トール。」 「うゎ、ミリアリア。・・・入ってきちゃダメだよ!」 ミリアリアがトールの部屋を覗きに行くと、いつもなら快くミリアリアを受け入れるトールが珍しく彼女を追い出した。 「ごめんなさい・・・・勝手に入って。」 トールの慌てた様子にミリアリアは戸惑った。 「いや・・・その・・・・今散らかってるから。」 「それなら片付けるのに。」 「だっ・・・だめだよ!あっ、ほら、食堂行こうよ、そろそろ時間だし、皆いるだろうから。」 「え?う、うん・・・・。」 半ば無理矢理ミリアリアを食堂に連れ出し、部屋から遠ざけた。 トールの部屋には金属の破片や鉄くずなどが、不器用に散らばっていた。 「キラ、ちょっと相談があるんだけど・・・・。」 小声でトールが言った言葉を、ミリアリアは聞いていなかった。 トールにはキラの協力が必要だった、決意の音を奏でるために。 「敵艦影発見、敵艦影発見。第一戦闘配備!軍籍にある者は直ちに持ち場につけ!」 ナタル・バジルール少尉の厳格な声がアナウンスで流れた。 全てのクルーがはっとし、意識を尖らせる。 「行かなきゃ・・・・。」 キラがフレイに微笑みかける。 キラは、フレイの父を守れなかったときから、彼女の事は絶対に守ると誓ったのだ。 「頑張ってね、キラ。」 彼女にとって、精いっぱいの微笑みでキラを送り出した。 その裏にどのような感情があろうとその微笑を崩す事はなかった。 「俺も行かなきゃ・・・・。」 「トール・・・・。」 ミリアリアは、トールの初陣を微笑みなどでは送り出す気になれなかった。 否。本当はそう有るべきだとはわかっていた。 それでもできなかった。 「行かないで・・・・。行かないでトール!」 「ミリアリア・・・・。」 トールは穏やかに、少しやりきれない様子でミリアリアを諭した。 「俺は戦うよ。やっぱり、ただ見ているわけにはいかないから。ミリアリア、手を出して。」 「・・・・・?」 ミリアリアは、恐る恐る言われたとおりにした。 はい、といってトールがミリアリアの手にのせた物は、お世辞にも綺麗とは言えない、不格好なオルゴールらしい木箱だった。 「トール?これどうしたの?」 ミリアリアがきょとんとトールを見やった。 「僕が作ったんだよ。・・・・キラに手伝ってもらったけど。ね?キラ。」 トールが照れくさそうに、キラの方へと視線を移した。 「僕はそんな。ちょっと手伝っただけだよ。」 それより、とキラはトールを急かした。 もう戦場に行かなければならない。 トールはスカイグラスパーに向かっていった。 「トール!!!」 胸騒ぎを覚えるミリアリアは大声で大好きなその人の名を叫んだ。 トールは一度振り返って 「すぐ戻ってくるよ。」 少し笑って、スカイグラスパーに消えた。 「はぁ・・・・。」 トール遅いな。 って、さっき出て行ったばかりなんだけど。 あなたが戻ってこない気がするの。 お願い。帰ってきて。 |