俺はまだ信じていたかったんだ。
Melancholy.
「父と話しに行くんだ」 そう言ってアークエンジェルを出て行ったのは、まだそんなに前のことではない。 「銃はいらない。相手に銃を突きつけながら【話し合いに来ました】なんて、おかしいだろ?」 敵軍の中にたったひとり丸腰で入っていくなど自殺行為だと しきりに武器の携帯を勧める皆に断りを入れたのは、誠意をもって接すれば 相手もそれなりの誠意で返してくれると、そう思ったからだ。 だから、ジャスティスも必要ない。 「お前っ、あれを置いていくなんてっ!!」 「ごめん。」 「ゴメンって……そういう問題じゃない!」 なおも食いついてくるカガリをキラと諌めて、俺はシャトルに乗り込んだ。 思えば、この時キラにはすべてが分かっていたのかもしれない。 行かなければ俺の気が治まらないことも 父を信じたいと思う俺の心も全部知っていて だから何も言わずに送り出してくれたのではないだろうかと、今になってそう思う。 シャトルの中で、まだ死ねないといったキラ。 あの言葉がなければ、俺は敢えて生きることを選ぼうとは思わなかっただろう。 銃を向けられた瞬間、本当は少し……父に殺されてもいいかと思ったんだ。 母はユニウスセブンで死に、祖父と祖母は顔も知らない。 俺にとって肉親と呼べる人は父だけだった。 だから、その唯一の肉親である父に銃を向けられたときは背筋が凍る思いがした。 そして、それと同時に。 存在を否定されたことを強く感じた。 生み出した人にすら認めてもらえない自分。 そんな俺に生きる意味などあるのかと考えて、出した答えは否。 殺されてもいいかと思った。 ……けれど、ふっと目を閉じかけて思い出す。 「僕たちは、まだ死ねない」 死ねない ……死ねない。 「………そうだな」 蘇るキラの言葉が俺を引き戻した。 肉親じゃなくても 繋がりなんかなくても キラは……キラ達は、俺を認めてくれる。 俺が必要だと、共に行こうと言ってくれる。 だから、まだ死ねないのだ。 体が力を取り戻す。 俺は放たれる銃弾にも怯むことなく、父へ飛び掛った。 結局、抵抗も虚しく捕まってしまったけれど。 Top ≫Next ―――――― melancholy ◆英語:憂鬱 ディタミネーションへ続きます。 |