伊東静雄「反響」
わが家はいよいよ小さし


    淀の河邊


 
 秋は來て夏過ぎがての
 
 つよき陽の水のひかりに遊びてし
 
 大淀のほとりのひと日 その日わが
 
 君と見しもの なべて忘れず
 

 
  こことかの ふたつの岸の
 
  高草に   風は立てれど
 
  川波の   しろきもあらず
 
  かがよへる 雲のすがたを
 
  水深く   ひたす流は
      もだ
  ただ默し  疾く逝きにしか
 

 
 その日しも 水を掬びてゑむひとに
 
 言はでやみける わが思
 
 逝きにしは月日のみにて
 
 大淀の河邊はなどかわれの忘れむ



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