伊東静雄「反響」
凝視と陶醉


    いかなれば

 
 いかなれば今年の盛夏のかがやきのうちにありて、
 
 なほきみが魂にこぞの夏の日のひかりのみ鮮やかなる。
 

 
 夏をうたはんとては殊更に晩夏の朝かげとゆふべの木末をえら
 
    ぶかの蜩の哀音を、
 
 いかなればかくもきみが歌はひびかする。
 

 
 いかなれば葉廣き夏の蔓草のはなを愛して曾てそをきみの蒔か
 
    ざる。
 
 曾て飾らざる水中花と養はざる金魚をきみの愛するはいかに。




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