伊東静雄「反響」
凝視と陶醉


    夕の海

 しづ
 徐かで確實な夕闇と、絶え間なく搖れ動く
     なみがしら            うみづら
 白い波頭とが、灰色の海面から迫つて來る。
                                      とも
 燈臺の頂には、氣附かれず緑の光が點される。
 

 
 それは長い時間がかゝる。目あてのない、
 
 無益な豫感に似たその光が
 
 闇によつて次第に輝かされてゆくまでには――。
 

 
 が、やがて、あまりに規則正しく囘轉し、倦むことなく
 
 明滅する燈臺の緑の光に、どんなに退屈して
 
 海は一晩中横たはらねばならないだらう。




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