伊東静雄「反響」
凝視と陶醉


    八月の石にすがりて

 
 八月の石にすがりて
 
 さち多き蝶ぞ、いま、息たゆる。
      さだめ
 わが運命を知りしのち、
 
 たれかよくこの烈しき
 
 夏の陽光のなかに生きむ。
 

  さだめ
 運命? さなり、
           みづか こせき
 あゝわれら自ら弧寂なる發光體なり!
 
 白き外部世界なり。
 

 
 見よや、太陽はかしこに
 
 わづかにおのれがためにこそ
 
 深く、美しき木蔭をつくれ。
 
 われも亦、
 

 せつげん
 雪原に倒れふし、飢ゑにかげりて
 
 青みし狼の目を、
 
 しばし夢みむ。




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