閑吟集 小歌

 
 よのなか
 世間はちろりに過ぐる ちろりちろり
(49)

大意……

世の中は、ちらっと、瞬く間に過ぎる。
ちろり、ちろりと。


 



 底本にした岩波文庫版には「一種の無常観だが、「ちろりちろり」には茶化したユーモラスな感じが漂う」とあります。「世間」を「せけん」の意味で取れば、確かにその通りだろうと思います。「ちろりちろり」と、そんな風に、人生はあっという間に過ぎていくものだよと、諦念混じりに笑いのめしている人物が、この歌からは容易に想像することが出来るでしょう。

 ただ、「世間」を「よのなか」とした場合、これには「男女の仲」の意味もあるわけで、そちらをとると、また意味が違って来ます。それに、「ちろり」という音からは、昔、酒を暖めるのに使ったという、「銚釐(ちろり)」という道具を連想することも可能でしょう。

 「せけん」も「よのなか」も、「ちろり」に入れた酒を暖めるくらいの、わずかな時間で「ちろりちろり」と過ぎていくものなのだ。そんな風に読んでみることも、可能なのではないでしょうか。


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