閑吟集 小歌

 
                                         なに
 花見れば袖濡れぬ 月見れば袖濡れぬ 何の心ぞ
(305)

大意……

花を見ては(涙で)袖をぬらし、月を見ては袖をぬらす。
我が心ながら、どうしたことでしょう。


 



 「何の心ぞ」と、花を見ても、月を見ても、なぜか涙が止まらない理由を他人に聞いている歌、とも取れますね。一種のなぞなぞみたいな物でしょうか。

 秋になって、何の理由もなくセンチメンタルな気分になって泣いてしまう、というのは思春期の女の子にはよくあることでしょうが、この場合はやはり「恋ゆえに」という所でしょう。何を見ても恋しい人につながって、逢えないことが悲しくて、涙が出てしまう。同時に、そんな自分の心を持て余して、自分自身に呆れはてて、思わず吐息をついてしまっている。

 なんという事もない歌ですが、読むたびに、恋の始めはこんなものだったかもしれないと思います。こういう感覚を無くしてしまうと、人間としては終わりになってしまいそうなので、出来るなら、幾つになってもこういう「心」を持っていたいと、読むたびに思う歌です。


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