北原白秋
 

「邪宗門」より

  
 紺屋のおろく




                  こんや
 にくいあん畜生は紺屋のおろく
     かか
 猫を擁へて夕日の浜を
 
 知らぬ顔してしやなしやなと。

                  ちくぜん
 にくいあん畜生は筑前しぼり、
 きやしや        こ あお   そ
 華奢な指さき濃青に染めて、
 きん
 金の指輪もちらちらと。

                  はくじよう  め
 にくいあん畜生は薄情な眼つき。
      まへかけ
 黒い前掛毛繻子か、セルか、
 
 博多帯しめ、からころと。

                   かか
 にくいあん畜生と、擁へた猫と、
 
 赤い入日にふとつまされて、
 がた  はま
 潟に陥つて死ねばよい。ホンニ、ホンニ……



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