大手拓次
『藍色の蟇』

湿気の子馬

  
  湿気の小馬


 
 かなしいではありませんか。
 
 わたしはなんとしてもなみだがながれます。
 
 あの うすいうすい水色をした角をもつ、
 
 小馬のやさしい背にのつて、
 
 わたしは山しぎのやうにやせたからだをまかせてゐます。
 
 わたしがいつも愛してゐるこの小馬は、
 
 ちやうどわたしの心が、はてしないささめ雪のやうにながれてゆくとき、
 
 どこからともなく、わたしのそばへやつてきます。
 
 かなしみにそだてられた小馬の耳は、
 
 うゐきやう色のつゆにぬれ、
 
 かなしみにつつまれた小馬の足は
 
 やはらかな土壌の肌にねむつてゐる。
 
 さうして、かなしみにさそはれる小馬のたてがみは、
 
 おきなぐさの髪のやうにうかんでゐる。
 
 かるいかるい、枯草のそよぎにも似る小馬のすすみは、
                      タンバアル
 あの、ぱらぱらとうつTimbaleのふしのねにそぞろなみだぐむ。