梁塵秘抄 巻第二 四句神歌 雑

 
                  な         かうなぎ       あり
 わが子は十余に成りぬらん 巫してこそ歩くなれ
             しほ        い か  あま  つど
 田子の浦に汐ふむと 如何に海人集ふらん
  まさ       と     と        なぶ
 正しとて 問ひみ問はずみ嬲るらん いとをしや
 
(364)
 

大意……

私の子供はもう十余りの年になったでしょうか。
歩き巫女になってあちらこちらを歩いているようです。
田子の浦あたりの海岸を歩けば、漁師達がどっさりと集まることでしょう。
占いが当たったとやら当たらないとやら、さんざん聞きただしてなぶりものにするでしょう。
ああ、かわいそうに。






 “歩き巫女”というのは、特定の神社に属さずに諸国を巡って歩く巫女のことです。

 巫女ですから、当然占いも生業でしょう。まだ年が若いですから、その占いが当たるとか当たらないとかいって、荒くれた漁師達にからかわれるでしょう。時には、遊女の真似事もするのかもしれません。

 可哀相だけれど、どうもしてやれない――。そんな母親の溜息が聞こえてきそうな気がします。

 そう嘆息する母もまた、二十歳に満たない娘と同じ境遇にあるのかもしれません。明日になれば、どこを定めぬ旅の歩き巫女として、自分も歩き出さねばならないのかもしれません。

 寂しい、切ない、母親の歌です。



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