萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  地面の底の病氣の顔


 
地面の底に顔があらはれ、
 
さみしい病人の顔があらはれ。

 
地面の底のくらやみに、
 
うらうら草の莖が萌えそめ、
 
鼠の巣が萌えそめ、
 
巣にこんがらかつてゐる、
 
かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、
 
冬至のころの、
 
さびしい病氣の地面から、
 
ほそい竹の根が生えそめ、
 
生えそめ、
 
それがじつにあはれふかくみえ、
 
けぶれるごとくに視え、
 
じつに、じつに、あはれふかげに視え。

 
地面の底のくらやみに、
 
さみしい病人の顔があらはれ。