萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  


 
あふげば高き松が枝に琴かけ鳴らす、
 
をゆびに紅をさしぐみて、
 
ふくめる琴をかきならす、
 
ああ かき鳴らすひとづま琴の音にもつれぶき、
 
いみじき笛は天にあり。
 
けふの霜夜の空に冴え冴え、
 
松の梢を光らして、
 
かなしむものの一念に、
 
懺悔の姿をあらはしぬ。

 
いみじき笛は天にあり。