萩原朔太郎
『月に吠える』より



  
  感傷の手


 
わが性のせんちめんたる、
 
あまたある手をかなしむ、
 
手はつねに頭上にをどり、
 
また胸にひかりさびしみしが、
 
しだいに夏おとろへ、
 
かへれば燕はや巣を立ち、
 
おほ麥はつめたくひやさる。
 
ああ、都をわすれ、
 
われすでに胡弓を彈かず、
 
手ははがねとなり、
              つ ち
いんさんとして土地を掘る。
 
いぢらしき感傷の手は土地を掘る。