萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  掌上の種


                 つち
われは手のうへに土を盛り、
つち
土のうへに種をまく、
         ヽ ヽ ヽ ヽ
いま白きじようろもて土に水をそそぎしに、
 
水はせんせんとふりそそぎ、
つち
土のつめたさはたなごころの上にぞしむ。
 
ああ、とほく五月の窓をおしひらきて、
 
われは手を日光のほとりにさしのべしが、
 
さわやかなる風景の中にしあれば、
 
皮膚はかぐはしくぬくもりきたり、
                              い き
手のうへの種はいとほしげにも呼吸づけり。