萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  焦心


 
霜ふりてすこしつめたき朝を、
                                  をとめ
手に雲雀料理をささげつつ歩みゆく少女あり、
 
そのとき並木にもたれ、
                                        すきま
白粉もてぬられたる女のほそき指と指との隙間をよくよく窺ひ、
 
このうまき雲雀料理をば盗み喰べんと欲して、
 
しきりにも焦心し、
 ヽ ヽ ヽ ヽ
あるひとのごときはあまりに焦心し、まつたく合掌せるにおよべり。