萩原朔太郎
『月に吠える』より

   
   山に登る
         旅よりある女に贈る


 
山の山頂にきれいな草むらがある、
 
その上でわたしたちは寢ころんでゐた。
 
眼をあげてとほい麓の方を眺めると、
 
いちめんにひろびろとした海の景色のやうにおもはれた。
 
空には風がながれてゐる、
                      くち
おれは小石をひろつて口にあてながら、
 
どこといふあてもなしに、
 
ぼうぼうとした山の頂上をあるいてゐた。

 
おれはいまでも、お前のことを思つてゐるのだ。