石川啄木

心の姿の研究 二

  
  起きるな

  にしび
 西日をうけて熱くなつた
 ほこり             がらす
 埃だらけの窓の硝子よりも
      あじき
 まだ味気ない生命がある
 
 正体もなく考へに疲れきつて、
 
 汗を流し、いびきをかいて昼寝してゐる
 
 まだ若い男のロからは黄色い歯が見え、
  がらす ご               けずね
 硝子越しの夏の日が毛脛を照し、
          のみ   は
 その上に蚤が這ひあがる。

 
 起きるな、起きるな、日の暮れるまで。
 
 そなたの一生に涼しい静かな夕ぐれの来るまで。

  ど こ    なまめ
 何処かで艶いた女の笑ひ声。




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