立原道造「萱草に寄す」
夏花の歌
その二
あの日たち 羊飼ひと娘のやうに
たのしくばつかり過ぎつつあつた
何のかはつた出来事もなしに
何のあたらしい悔ゐもなしに
あの日たち とけない謎のやうな
ほほゑみが かはらぬ愛を誓つてゐた
あざみ
薊の花やゆふすげにいりまじり
をさな
稚い いい夢がゐた――いつのことか!
どうぞ もう一度 帰つておくれ
青い雲のながれてゐた日
あの昼の星のちらついてゐた日……
あの日たち あの日たち 帰つておくれ
僕は 大きくなつた 溢れるまでに
僕は かなしみ顫へてゐる
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