立原道造「暁と夕の詩」


  
 II やがて秋‥‥


 
やがて 秋が 来るだらう
 
夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ
 
樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに
 
あらはなかげをくらく夜の方に投げ

 
すべてが不確かにゆらいでゐる
 
かへつてしづかなあさい吐息にやうに……
 
(昨日でないばかりに それは明日)と
 
僕らのおもひは ささやきかはすであらう

 
――秋が かうして かへつて来た
 
さうして 秋がまた たたずむ と
 
ゆるしを乞ふ人のやうに……

 
やがて忘れなかつたことのかたみに
 
しかし かたみなく 過ぎて行くであらう
 
秋は……さうして……ふたたびある夕ぐれに――