島崎藤村

「若菜集」より


  
 一得一矢


            こほろぎ
君がこゝろは蟋蟀の
 
風にさそはれ鳴くごとく
あさかげきよ  はなぐさ
朝影 清き花草に
 を
惜しき涙をそゝぐらむ
 

 
それかきならす玉琴の
 
一つの糸のさわりさへ
 
君がこゝろにかぎりなき
 
しらべとこそはきこゆめれ
 

 
あゝなどかくは触れやすき
 
君が優しき心から
 
かくばかりなる吾こひに
 
触れたまはぬぞ恨みなる



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