中原中也「在りし日の歌」


   はじ らひ
   含 羞
 
       ――在りし日の歌――



                        は
なにゆゑに こゝろかくは羞ぢらふ
 
秋 風白き日の山かげなりき
 
椎の枯葉の落窪に
                        た
幹々は いやにおとなび彳ちゐたり

         く
枝々の 拱みあはすあたりかなしげの
 
空は死児等の亡霊にみち まばたきぬ
 
をりしもかなた野のうへは
 ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
あすとらかんのあはひ縫ふ 古代の象の夢なりき

 
椎の枯葉の落窪に
 
幹々は いやにおとなび彳ちゐたり
 
その日 その幹の隙 睦みし瞳
 
姉らしき色 きみはありにし

                 ひま
その日 その幹の隙 睦みし瞳
 
姉らしき色 きみはありにし
                    ほの
あゝ! 過ぎし日の 仄燃えあざやぐをりをりは
 
わが心 なにゆゑに なにゆゑにかくは羞ぢらふ……