中原中也「在りし日の歌」


    
   夜更の雨
    
       ――ヱ゛ルレーヌの面影――



 
雨は 今宵も 昔 ながらに、
 
  昔 ながらの 唄を うたつてる。
 
だらだら だらだら しつこい 程だ。
                         づうたい
 と、見るヱ゛ル氏の あの図体が、
 
倉庫の 間の 路次を ゆくのだ。

                     かつぱ     ひかり
倉庫の 間にや 護謨合羽の 反射だ。
                                  ふ ざ
  それから 泥炭の しみたれた 巫戯けだ。
 
さてこの 路次を 抜けさへ したらば、
 
  抜けさへ したらと ほのかな のぞみだ……
 
いやはや のぞみにや 相違も あるまい?

 
自動車 なんぞに 用事は ないぞ、
               ひ
  あかるい 外燈なぞは なほの ことだ。
         あかり
酒場の 軒燈の 腐つた 眼玉よ、
   とほ              せいみ
  遐くの 方では 舎密も 鳴つてる。