中原中也「在りし日の歌」


   
  閑 寂


         おとな
 なんにも訪ふことのない、
 
 私の心は閑寂だ。
 
     それは日曜日の渡り廊下、
 
     ――みんなは野原へ行つちやつた。
 

             つ や
 板は冷たい光沢をもち、
             な
 小鳥は庭に啼いてゐる。
 
     締めの足りない水道の、
              しづく
     蛇口の滴は、つと光り!
 

       ば ら いろ         ひばり
 土は薔薇色、空には雲雀
 
 空はきれいな四月です。
               おとな
     なんにも訪ふことのない、
 
     私の心は閑寂だ。