中原中也「在りし日の歌」


   
  また来ん春……


 
 また来ん春と人は云ふ
 
 しかし私は辛いのだ
 
 春が来たつて何になろ
 
 あの子が返つて来るぢやない
 

 
 おもへば今年の五月には
 
 おまへを抱いて動物園
             にやあ
 象を見せても猫といひ
             にやあ
 鳥を見せても猫だつた
 

 
 最後に見せた鹿だけは
 
 角によつぽど惹かれてか
 
 何とも云はず 眺めてた
 

 
 ほんにおまへもあの時は
 
 此の世の光のたゞ中に
 
 立つて眺めてゐたつけが……