中原中也「在りし日の歌」
蛙声
おほ
天は地を蓋ひ、
たまたま
そして、地には偶々池がある。
その池で今夜一と夜さ蛙は鳴く……
――あれは、何を鳴いてるのであらう?
その声は、空より来り、
空へと去るのであらう?
おを
天は地を蓋ひ、
そして蛙声は水面に走る。
く に
よし此の地方が湿潤に過ぎるとしても、
疲れたる我等が心のためには、
なほ おも
柱は猶、余りに乾いたものと感はれ、
頭は重く、肩は凝るのだ。
さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、
その声は水面に走つて暗雲に迫る。
BACK
NEXT
[中原中也]
[文車目次]