上田敏「海潮音」

 
 花の教

クリスティナ・ロセッティ




           うかが      おのづか
 心をとめて窺へば花 自 ら教あり。
         の ば ら
 朝露の野薔薇のいへる、
   えん
 「艶なりや、われらの姿、
  とげ   お     いろか
 刺に生ふる色香とも知れ。」
  むぎふ         け し
 麦生のひまに罌粟のいふ、
           あか
 「せめては紅きはしも見よ、
 
 そばめられたる身なれども、
  げん
 験ある露の薬水を
  も           さかづき
 盛りさゝげたる 盃 ぞ。」
 
 この時、百合は追風に、
 
 「見よ、人、われは言葉なく
 
 法を説くなり。」
 
 みづからなせる葉陰より、
             すみれぐさ
 声もかすかに菫草、
                か
 「人はあだなる香をきけど、
              をしへさと
 われらの示す教暁らじ。」



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