八木重吉
詩稿「母の瞳」

 
   秋に入る日(断片)


 
 けふも疲れてかへってきた
 
 このごろの 澄みふかんでゆくあたりのさまをうれしむほか
 
 あかるいこころもない けふもくらいくらいきもちだった
 
 死ぬような気ばかりする
 
 いや詩すらも私をむちうたぬ
 
 愛にすきとほらうともがくが
 
 しかし愛のことばすらときがたい
 
 わくものはいきどほりと自らに執するこころ
 
 まことに盲ひたるこころのみなり



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