八木重吉
詩稿「木と ものの音」

 
   貧者


 
 まづしく
 
 世のかたほとりにすんでゐるゆえだらうか
 
 少しの悲しみではあるけれど
 
 悲しみをたいせつにいたわってきたゆえだろうか
 
 しだいに心はうつくしくなってゆく
 
 ふだんはわからないが
 
 自分があるかさへよくわからぬほどだが
 
 すこしでもものを考へたりすると
 
 考への末はかがやいてしまふ



BACK戻る 次へNEXT
[八木重吉] [文車目次]