2001年

目次


 

500年エンドウ 12月23日 日曜日 晴れ

 両国の工事は今日ですべての作業が終了した。現場は両国警察署の通り。隣に健康センターとかいう建物があり、病院のようでもあり、そうでもないような訳の分からないものである。そこの車庫前にエンドウが鉢植えにされて置かれている。「ツタンカーメンのエンドウ」と書かれたプレートが立てられ、石棺の副葬品の中にあったエンドウ豆の子孫である、とのことである。

 紀元前3000年の頃のエンドウ豆が5000年の時を経て現代に芽ばえる、信じがたい事実である。 そういえばその当時の王様達は死後の復活を信じてピラミットを建て、その中に埋葬されたという。ミイラが生き返るわけはないが、そのDNAからクローンを作り出すことは出来る。しかしそれはその王そのものではなく、完璧なそっくりさんで、完くの別人ということになる。

それに比べこのエンドウの方がまともである。昨日の朝、私はしばらく立ってそれを見つめていた。するとそこの管理人が満面に笑顔浮かべて近づいてきた。小柄な50代の男である。「これはねー、ツタンカーメンの側にあったものだ。最近見つかってこうして広がったんだ。なんなら種を上げようか……?」

 しかし8時30分、朝の打ち合わせの時間である。「あとでもらいに来ます」 と言ってその場を離れた。 今日、それをもらうつもりであったが、日曜日で彼は休みらしく、とうとうその姿を見ることは出来なかった。

明日からの現場は大泉学園で、ガス工事の路面復旧工事となる。今年も残すところあとわずか、勢いをもって仕事に励む事を己に言い聞かせた。

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47義士行列 12月15日 土曜日 晴れ

 現場に来て昨日のロードアスファルト舗装面を見ると見栄えが悪い。セラテックの小豆色が汚れているからだ。元請けの若い監督が「水を撒きながら転圧すると粒粒の下に水が溜まって浮き上がる。水を出しながらの転圧は止めた方が良い」 と言った。

 そのためコンバインの鉄輪とゴムタイヤに軽油をかけながらの転圧がなされた。私は水を出したり止めたりしながら転圧すべきだと主張した。水を多量に出すのが悪いのであって、転圧面が濡れる程度ではなんの影響もないのである。軽油ではアスファルトが溶けてタイヤに付着し、粒粒を汚すことになる。しかし私の言うことは無視された。結局は軽油を撒きながらの転圧が続行されたのであった。

 私の予感は的中した。セラテックの汚れは溶かされたアスファルトである。しかし、交通量の激しい道路であるから、いずれ汚れは晒されて目立たなくなるはずである。

 昼休み、きょうは47義士の討ち入りをはたした日に当たるというわけでセラテックの通り、馬車通りを行列が歩いた。先頭を2,3人のチンドン屋が鐘を鳴らし、つぎに美しいおねーさんたちが彩りあざやかに歩く。大石内蔵助、堀部安兵衛、 中村勘助、etc 達がその後からゆっくりと歩く。沿道は人だかりが続き、あちこちで拍手やかけ声が上がった。

 1702年,元禄15年12月15日の三百年前、四十七人の武士達は六十才の吉良上野邸に討ち入り、彼を主君の敵として捕らえ、首を切り落としてしまった。 その後、四十七人は幕府の命令により切腹した。吉村親方が、「四十七人とも首吊りではなかったのか」 と言った。横山氏が「ちがう腹切りだった」 と憤慨して喚いた。

 しかし吉村親方は痩せてはいるが意外と我が強い。「いや絶対に首吊りだ」  「切腹、腹切りだー。ちゃんと歴史の本に載っている」  「それはその歴史の本が間違っているのだ。だから中国と韓国が教科書問題に一悶着つけるんだ」

 話にならん。私は二人から離れた。……考えてみると、あの四十七人の男達、死んだあとの妻子、親、家族達がかわいそうである。 殺された吉良上野も哀れ。浅野長矩を勅使接待の件で馬鹿にしなければこんな事にならなかったものを。やはり人間は思いやりの心を持って、愛と正義を実践し、互いに助け合って進化発展の道を歩むべきである。さもないと人類はいつかこの世から抹殺されるかも……。

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セラテック舗装 12月14日 金曜日 晴れ

 きょうも両国の現場でした。監督は向井さん。己に厳しく、他に寛大な良い男であります。作業内容はロールドアスファルト舗装、初めて聞く工事名です。小豆色の小石のようなかたまり、一見して金平糖に色を付けたような感じでありますが(それを元請け会社、足立建設の若い監督に聞きますと「セラテック」であると教えてくれました )、それをゴム入りアスファルトを敷き均したあとに均等にばらまいて転圧するのであります。

 一方通行の交差点の半分、約60平方メートルでしたが、小型切削器で切削したあとの舗装作業でもあり、セラテックをばらまくという神経を使う仕事でしたので意外と時間がかかり、終わったのが5時前でした。しかし、完成した路面は小豆色に輝く粒が全面に広がり、見る人に落ち着きと安堵感を与えるものでありました。

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昼飯牛丼  12月8日 土曜日 晴れ

 はやいものですね。あっと言う間に師走になってしまいました。今日の現場は両国の4丁目17、近くに二所関部屋があり、勝海舟が生まれた屋敷跡があります。いまは公園です。それに、47士が討ち入った吉良邸が近くにあるとか……。

  作業内容は下水道工事跡の路面復旧工事です。監督が若い矢作さん。目がきらきらして活発ないい男であります。思いやりもあってなかなか良い、将来の大物間違いなしであります。

 昼食は一週間だけ250円になった吉野屋の牛丼を食べました。親方の吉村は、狂牛病など食えるか! といってうどん屋に入った。比嘉さんと吉野、そして監督の矢作の4人が牛丼を食べたのであります。

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働くために生まれてきた  11月27日 火曜日 晴れ

 昼勤夜勤が連続した。帰ってきたのがきょうの朝8時であった。そのまま寝て目覚めたのが午後4時。激しい労働だったので体がぐったりしている。ネオンやビル明かりがたちこめる地上とは別に、冷気が幾重にも重なる夜空は果てしなく深く、星のまたたきが無数に広がり、きらめくそれらのしずくが降り注いでいた。

 生命体は働くためにこの世に生まれてきた。働かねば退化する。働けば心身ともに浄化されていく。そこに喜怒哀楽を越えた勢い、やる気があれば進化が始まる。進化せねば宇宙の根源性は喜ばない。全ては宇宙の進化性と共に発展せねばならないからだ。

 これからまた夜勤へ出かける。紅葉した銀杏並木の隙間を満たす、あの東京タワーの鮮やかな輝き、そしてその頭上に浮かぶ月の神秘性、 汗の中から眺めるその光景が今夜の楽しみです。

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夜間工事流星 11月24日 土曜日 晴れ

 昨日の現場は港区の芝3−1、東京タワーのすぐ近くでありました。作業内容は歩車道ブロックとエプロンコンクリートの撤去、そしてその復旧でありました。花園ブロックを並べたり、生コンを打設したり、道を尋ねる人に道を教えたり、ようやく終わったのが夜中の12時でした。

 しかしそれにしても夜空にそびえる東京タワーの眺めは素晴らしかった。林立する他の高層ビルを足下にして橙色に輝き、無限に降り注ぐ星明かりを跳ね返して立つその優雅な姿、ただ、ただ、見事としか言いようがない。流れ星がその上空を過ぎった。きっと日本中を睡眠不足にさせた獅子座流星群の最後の一つだったかも……。

 私も人類流星群の流れから、時期はずれに遅れて飛び続ける一つ……。でもそれでいいじゃありませんか。早かろうが遅かろうがそんなこと人生には関係ないことです。問題は広い寛大な心と正確な目で、世界と人間をいかに見つめるかにあると思います。

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11月18日 日曜日 曇りのち晴れの予報(午前5時10分)

 昨日、土曜日は晴れでございました。現場は豊島区巣鴨1−24−1でありました。道路は距離150bほどで、幅が6bほどの一方通行です。その通りを挟んで西側は文京区千石4丁目30となっています。つまり豊島区と文京区が向き合っているわけです。

 しかし、そんなことはどうでもいいのであります。すり付けをはがして舗装の段取りが終わったのが午前11時でした。それで舗装開始を正午として、全員昼食という事に相成った。すき屋という牛丼屋が白山通りにあったので 吉野、吉村、中野、私の4名で中に入った。

 牛丼280円、大盛りで380という安さ。狂牛病なんって我々土方にはどうでもいいことだ。エイズ癌性気ちがい病、エボラ病源菌コレラ、ペスト感染性アレルギイーであろうと平気であるからだ。 おかげさまで満腹となり、公園ベンチの日なたでぐっすりと昼寝までしました。生きていることの素晴らしさ、見栄、体裁、おごりから解放されたことにたいする神えの感謝で心が浄化されました。

11月16日 金曜日 晴れ

 今日は激しい労働で心身ともに疲れたのでそのまま寝ます。

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ばーさん原宿 11月14日 水曜日 晴れ

 作業終了後、吉村、横山、吉野、中野、の5人で、JR巣鴨駅の北向こうにあるとげ抜き地蔵へいった。今日は縁日となっていたからです。若者の原宿に対して、こちらはバーさん原宿、というらしいですね。でも、人混みを構成している人々は結構若い人が大勢おりました。しかもほとんどが美人……。バーさん原宿より、美人原宿がいいと思いますけど、
みなさんはどうお考えですか?

 今日の現場   巣鴨1丁目22番地 
 工事名      下水道-路面復旧工事
 勤務時間     9.00〜17.00
 監督       杉山
 作業員      吉村,上、横山、私、吉野、中野、比嘉、
 オペ       平(たいら)
 道路は
約200平方メートル 幅4b 長さ50b アスファルト2層打ち。厚さ10a アスファルト約25トン使用

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まだまだ若いのだ 11月12日 月曜日 雨のち曇り

 9.10日は雨で休みでした。その両日何をしたか? と、恐らくお聞きになるでしょうね。土方で60才、ともなれば酒に博打にカラオケ喫茶、初老齢の侘びしさを何かで紛らわそうとする前途絶望の労務者……、とお思いになるでしょう。ところがそうではないんでございます、みなさま……。

 伊能忠敬は56才から測量の技術を学んだ。その頃の56才といえばいまの86才である。何しろ人生40年といわれた時代ですから……。 ですから60才というのはその頃に換算すると20才となる。ぐわっはっはっはっっはー……。

 というわけで私はまだまだ若いと思っているし、頭はハゲかかってはいるがさえている。それでその両日は哲学の勉強をしたのです。 紀元前642年〜546年頃、イオニアのミレトスにタレスという偉い人がいた。彼は全てのものは水から生じて水へもどっていくとしたのです。

 このタレスの弟子で、アナクシマンドロスは、万物の原理をアペイロン(無限なるもの)と考えたのです。アペイロンは不滅にして神的なものであり、全てを包括し、全てに秩序を与える、としたのでございます。あとは次の機会に述べますが、私の祖先が素っ裸でイノシシやウサギ、魚などを捕って生活している原始時代に、こんなに高度な頭脳で世界を見つめていたとはビックリであります。

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妻をめとらば 11月8日 木曜日 晴れ
 
 長さ60b 幅3bの道路と、長さ40bは幅3bの道路2本のアスファルト舗装を完了した。20トンのアスファルトを4トンダンプ2台が数回往復して運んだ。腰を痛めた”上さん”とニンニク臭い”中野さん”がスコップを使ってアスファルトを荒均しする。次ぎに比嘉さんと私がレーキを使って丹念に均して仕上げる。その後からカラオケ好きの吉野さんがプレートランマーーで両サイドやマンホール周りを転圧する。

 最後を吉村親方がコンバインローラで全面を転圧してくるのであります。終わったのが3時30分。これで春江町現場の路面復旧工事は全て終了したことになる。女子マラソン銀メダリストの誰かさんではないが、よくやったと自分で自分をほめたいと思います……。

 明日金曜日は休みです。その次からは神田、足立区の弘道、巣鴨へ現場が移り、休みなしとなる。再来週の月曜日が代休となるらしい。正月も2ヶ月足らずに迫っている。いまのうちに稼いで置かねば、おっそろしい女房様に短足3回転まわし蹴りを食らうことになる。独身男性に告ぐ。妻をめとるときは弱くて優しい女を捜せ。地獄の拷問か、天国のオーケストラか、それはいかなる女を妻にするかにかかっているのだ。

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偶然の一致  11月7日 水曜日 晴れ

 春江町からの仕事帰り、靖国道路を走り両国橋を過ぎたところで信号待ちをしていた。渋滞で車が前後左右にづらーっと並んでいる。 何気なく前の車のプレートナンバーを見ると(足立せ77)3338となっている。

 最後の8が3ならオール3で面白いと思いながらその左を見ると(湘南さ?)8883となっているのだ。これは最後の3が8ならオール8だ。そしてその前の2台の車を見ると12345678……、こんな馬鹿な!偶然が重なりすぎている。私は何となく薄気味悪くなった。

そして恐る恐る右の車を見ると7901となっている。何だ、ただの番号じゃないか、と思ってほっとした次の瞬間、ぎょっとした。それは何と私がいま運転している車と同じナンバーではないか。 世の中には偶然の一致ががいろいろと起こるんですね。


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人生とは何か?  11月5日 月曜日 曇り

 連日ハードスケジュールが続いた。朝4時半起床、それから洗面、トイレ、味噌汁の朝食を済まして5時半には現場へ飛びだしていく。帰ってくるのは夜の9時前。シャワーを浴び、夕飯をすまし、ビールを飲んで寝るのが11時前である。

 これが2ヶ月近く続いている。現場は江戸川区の春江町です。作業内容はガス工事跡の路面復旧工事。1日に約二百平方メートルの道路のアスファルトをはぎ取り、不陸せいせいをし、2.30トンのアスファルトを手引きで仕上げる。200平方メートルは普通7名の男たちが2日で仕上げる仕事量である。

 それもあと2,3日で終了する。その後はひまになるそうです。社長様は釣りに出かけて留守。予定が組めないので今日は休みとなりました。これからビールでも飲んで昼寝します。明日は雨の予報が入っているのでまた休みかも……。人生とは何か? そんなことは働いて年を取っているうちに分かることだと思います。

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2001年7月〜10月

 

神様! 10月14日 日曜日 晴れ
 
 今から仕事へ行きます。現場は江戸川区の春江町。ガス工事の路面復旧工事であります。車の入らない狭い路地が網の目のように広がっているところなのでツルハシや、一輪車を使っての完全人力作業となる。日曜日にやるのは、大きな工場があって、日曜以外は営業妨害となるらしいからです。

 昨日はその為の代休でしたのであります。では行って参ります。

祈り……。

神様!今日も世界中の人間が思いやりの心を持ち、愛と正義を実践し、互いに助け合い、寛大な心と精神で神人和楽の陽気暮らしの世界を、この地上に実現する働きができますように!  そして全ての人間が富み栄え、心身共に健康でありますように!

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人が何ごと言おうとも 10月3日 水曜日 晴れ

 ただいま午前4時50分です。 これから洗面をすまし、味噌汁を飲んですぐに仕事へ行くのでございます。人間無心に働いているときが幸せなのかも知れない。

「人が何ごと言おうとも、神が見ている気を静め!」

 他人からほめられ、称賛されて喜んでいてはなりません。 それよりも人から罵倒され、口汚く罵られてもびくともしない寛大な心、になることが超素晴らしいのです。その為には上のような啓示をいつも心に置いておくことですね。

なにも気にしない、心にかけない、宇宙の無限性と奇蹟をいつも見つめる、それが心の傷から解放され、孤独と絶望から這い上がる術なのです。

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弱い者いじめはいけません 9月21日 木曜日 曇り後雨

  現場は江戸川区春江町の3丁目。ガス工事後のアスファルト舗装復旧工事です。18日から始まって今日で4日目でございます。それは良いのでありますが、練馬区の石神井にあります親会社、岩城組まで軽のマイカーで行き、そこで大型の保安車に乗り換えて現場までい行くのであります。

 新青梅街道から千川道路に出て、環八を過ぎり、目白道路に入ります。そして環七や中野通り、山手通り、明治通りなどを過ぎって飯田橋に出る。そしてでございます、それから九段下に突き当たって靖国通りに躍り出る。後は江戸川区の現場まで真っしぐらとなります。

 今日は雨で帰りは大渋滞でした。63才と推察する和田おばさんが 「西部池袋線の中村橋まで乗せてくだい」 と申しますので、もちろん”OK”よ、と了承した。和田おばさんは居眠りです。そして、飯田橋辺りで目覚めまして 「わたしね、現場で、クソ、ババー、って怒鳴られたことがあるのよ……」 と言った。

 「けしからん、大変失礼だ」

 と私が言うと、和田さんは笑いながら答えた。

 「あの人は言いたいことは言うけど根はありません。単純馬鹿ですね。ですから私、なんと言われても気にはしていません。うおっほっっほっほー ……」 

 私には和田おばさんの悲しみが痛々しく伝わる。彼女とて人の子、心は傷つくようにできている。クソババー、と言われて平気のはずがない。それをカムフラージュする術とバリヤを強めただけに過ぎない。

 監督たるもの、下品であってはならない。気高く、思いやりの心を持ち、仕事を通して心の完成を計らねばなりません。そして、弱い者を助け、正しい心に導いてやる。それが監督の任務ではありませんか? 己の特権を利用して、言いたい放題、やりたい放題,弱い者いじめでは人間として失格です。

 そして、公共工事を司る役所や国、会社の社長、重役たちは、金儲け、面子、自尊心を捨てて、人間第一、仕事は2番、という計算で人々の心に愛と正義と思いやりを植え付けるように視線を変えるべきです。いつまでも金儲け主義では人類は滅びてしまいます。

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考えすぎか? 9月16日 日曜日 曇り

 沖縄へ行って来ました。3日〜6日までの3泊4日でした。高度11000b、秒速232.5bでジャンボは飛んだ。一秒間に232.5b……、凄まじいスピードですね。びつくりです。機内の窓から外を眺めると、見渡す限りの雲海でした。神々のAmusument Park とでも言いたいような聖なる光景でした。

 下々の世界が色褪せて意識を過ぎったりする。隣の席に英字新聞を広げている男がいた。よく見ると中近東らしき人相である。目つきが悪く、時々辺りをぎょろっと見たりした。もしかするとハイジャックを企ている奴か……? 奴が拳銃を持って立ち上がったら私はいかにすべきか……? 戦うべきだ! 私はそう決意して彼の様子をうかがった。

彼は私の異様な気配を感じたらしく、急に新聞を顔に広げてタヌキ寝入りをはじめた。そして、無事那覇着と相成りました。そして私は自分自身を恥じた。何であのようなことを考えたのかと……。あの人に対して大変失礼なことを思ったと……。

 ところがである、11日にあの衝撃的な事件が起こった。二ユーヨークの世界貿易センタービルとペンタゴンへの旅客機突撃テロである。その頃、沖縄は台風16号が停滞、飛行機は全便欠航して5,6日は飛んでなかった。

 思うのですが、もしかすると彼等は沖縄のカデナ基地も狙っていたのではないでしょうか。しかし台風がそれを阻止して沖縄を救った……。考え過ぎですね、これは……。しかし、あの中近東男がいまでも気になります。もしかすると、沖縄標的の偵察隊員だったかもと……。

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世のため人のため  8月29日 水曜日 晴れたり曇ったり

 今日から新しい現場です。西川口駅から下りて北西へ徒歩20分程度、埼玉県川口市上青木西2−12、の周辺です。ガス工事跡の復旧工事であります。

 アスファルト面とブロックなどのカッター入れと、エプロン、ブロックの撤去、そして枠組みなどの雑工事でありました。これから10日間ほどこの辺一帯の工事となります。

 近くには細長い公園がありまして、卵を立てたような綺麗なトイレもある。ところが昼休みに高木さんが入った途端、悲鳴を上げて出てきたのです。誰かが便器の周辺に黄金の物質を撒き散らしてあったのです。

 世の中には公衆道徳を守らない人々がかなり多くいらしゃるものです。あとは野となれ山となれ、After me , Deluge ! (わらわの死後は大洪水が起こりやがれ! ポンパドール) など、自分さえ良ければいい、という考えの人には困りますね。

 これではあとから入る人々が不愉快な気持となる。1人の人の不愉快さは百万の人々をさらに不愉快にさせるものです。そしてその不愉快さは悪、災いとなって自分に降りかかってくるものなのです。この世は打てば響く世界、己の行動は必ず結果となって己に帰ってくる。これは嘘でもなければ騙し、誤魔化しでもありません。厳然としたこの世の真理、理法なのであります。

 ですから人間は幸せになりたければ、見知らぬ他人や、自分を悪くいう人であろうが良くして上げることです。私はそのトイレに行き、蛇口にホースをつけて中を綺麗に洗い流し、掃除いたしました。黄金の物質は跡形もなく消え去り、清らかな便器となりました。 これで利用する人はさわやかになることでしょう。

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真昼のカラオケ 8月27日 月曜日 曇り

作業終了が午後2時過ぎでした。吉野さんが 「明日は代休だからいまから付き合ってくれ」 としつっこく付きまとうので仕方なく赤羽まで行くことになった。

 ♪♪チリ紙に包んだ足の爪、ごしょう大事にいたします。あなたにあいたくなったなら、ほっぺをちくちくさします ♪♪
 
♪♪風の寒さや冷たさにやなれているけど、あなたのいない寂しさにや、なれることは出来ません♪♪

 ♪♪酒は水で薄れるけれど、未練は水でも薄れません……♪♪

 午後3時だというのに店は中年や熟年の紳士淑女でいっぱいでありました。そして、それぞれがステージに上がって上のような台詞の歌を歌うのです。しかも歌手並にうまい。さらには吉野さんがなんと歌手以上にうまいではありませんか。

  ♪♪芸のためなら女房も泣かす、それがどうした文句があるか……。それやわいは阿呆や、酒はあおるし、女も泣かす。……酒や、酒や、酒こうてこーい……♪♪

 渋い声に高い声、女の声に馬のいななき。とにかく1人2役、3役と多芸、ここまで来るには1000万円以上の金がかかったと思います。彼だけが外の誰よりも拍手が多く店のスターであった。

 そして、私にも歌えというのです。私はびつくり、とんでもございません、と断った。ところがである、歌はないと店やお客さんに対して失礼になる、という。皆の視線が私に降り注ぐ。そしてそれがしだいに青白く光り出してくるのです。

 こうなったらやけくそであります。 ラ、ノビヤ という歌を声を張り上げて喚き歌った。
 
 ♪♪白く輝く花嫁衣装に、心かくした美しいその姿、その目に溢れる一筋の涙を、私は知っている……♪♪

 歌い終わったとき、大拍手が爆発した。……?なぜなんでしょうか。決してうまくないはずだのに拍手がこんなにあるなんて。恐らく初めての人には拍手をしなければ失礼になる、という思いやりの心からだと思いました。しかし、疲れました。2度とこういう店には行かないことにしました。

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レーキ使いの達人 8月26日 日曜日 曇り、朝の一時大雨

 現場に着いたのが7時59分であった。かろうじて8時に間に合った。下落合い駅を出た途端、土砂降りとなった。駆けて駐車場の舗装現場に着くと雨は土砂降りを超越して岩石降りとなりました。何しろピンポン玉ぐらいの雨粒がゴーゴーと降るものですから、私はてっきりこの世の終わりかとビックリしたのでございます。

時々バレーボール大の雨粒も混ざっておりました。よく見ると中に雀が閉じ込められてもがいていました。これはウソのようなホントでない話であります。この雨も9時には小降りとなりましたので舗装開始。ここで男たちの壮絶な戦いが始まる。

 アスファルト舗装の花形、主役はレーキマン、レーキ使いの腕にその仕事の出来映え、優劣がきまる。それ故に男たちはレーキを持ちたがりながら、持とうとしないのです。つまり、レーキを持つのは暗黙の認められたものか、監督から指名された者であります。

 私はレーキ使いの超達人でありますが、何しろこの会社の新米ですので出しゃばってはいけないのです。それでスコップを持ってフニッシャーが巻き下ろしたアスファルトを汗を飛ばして均しました。ところがレーキを使っているのは親方の吉村だけで、あと一人は誰も出ないのです。

 それは皆が私にレーキを持てという暗黙の譲歩だったのです。一昨日の舗装で、何かの弾みでレーキを持ったとき、神業的動きであっという間に美しく仕上げたので、男たちは恐れと驚嘆を持ったのです。

 舗装は午前中で終わった。監督の杉山は信じられないという表情を私に向け続けた。この舗装は一日は絶対にかかるはずであった。それが私の出現であっという間に終わったのであります。

 私は別に自慢しているわけではありません。ただ、真実を述べているだけであります。真実を曲げることは自他共に許されません。そこには、見栄体裁、自尊心、欲などの埃となる心使いがあってはならないのです。

 では今日はこれにて失礼します。  

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良いことをして無視された男 7月30日 月曜日  朝、薄曇り

 日曜日(29日)の朝7時に夜勤から帰ってきた。頭ガンガン、耳鳴りゴーゴー、がだいぶ治まっている。出勤前は睡眠不足と日頃の疲労の蓄積、頭痛と吐き気でふらふらだったが、やけくそになって激しく動き回っているうちに頭痛と吐き気は消えていた。

  Wirt Gen という巨大切削器でアスファルト路面の切削が進んでいく。排気ガスと粉塵が舞い上がって視界を遮る。パワーライト車が6灯で照らすのだがその強烈なライトも遮るのだ。

 どうせ働くのなら、だらだらとした動きで無様な姿は見せられない。やるからには敏捷な動きで、一に勢い、二にも勢いである。私はスコップを持ち、山積みとなったアスファルトかすをショベルカーに積み込む。たとえぶっ倒れて死のうとも本望だ。土方が懸命に働きながら現場で死ねれば悔いはない。

 しかし、なぜかここ二,三日は涼しい。台風の接近のせいなのか良く分からないが、とにかく有り難い天の助けである。倒れなかったのはそのせいかも知れない。

 帰りに吉野さんが5〇〇_の缶ビールをご馳走した。前の日は私がおごったので彼の番というわけである。そんな繰り返しが十日ほど続いている。「ぎゃー、やっぱり冷えたビールはうまい!」 半分ほどを一気に飲み干した彼は大声で叫んだ。

 彼は定期券を拾ったという。JR、営団地下鉄、西武新宿の 三社にまたがるもので、三万円余相当の金額であった。彼は早速それを駅に届けたが駅員は事務的に受け取り、当然という顔で無視されたらしい。その事が彼を憤慨させた。

  別にお礼の金が欲しかったわけではないが、せめて良いことをしたんだから、有り難うございます、の一言ぐらいあってもいいのではないか、良いことが無視されるようでは良いことをする人はいなくなって、悪いことをする人が増える。これは誰の責任か、良いことした人を無視して馬鹿にする人たちであるのだ。彼等は人類発展の敵である。彼の演説に人々が立ち止まってうなずいていた。

 そういえば今日は日曜日、選挙がある。彼と私は残りのビールを飲み干して立ち上がった。小泉の純ちゃんを喜ばして上げるか、彼はそう言って笑った。

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九字を切る  7月26日 木曜日 朝薄曇り

 6月20日に始まった夜間工事は1ヶ月をすでに越えている。あと2.3週間は続くと思う。武蔵関駅の踏切から新青梅街道までのバス通りは全て完了した。現在は新青梅街道から富士街道までのバス通りの工事にかかっている。

 やはり夜間工事は体に合わない。肉体機能のリズムが完全に狂ってしまうのだ。仕事を終えて帰ってくるのが朝の8時前後。それからシャワーを浴びて横になるのだがなかなか寝付かれない。夢うつつの状態が長々と続き、ようやく睡魔に襲われて、これから熟睡、となる頃は午後5時頃となる。出勤時間である。

 そして、眠気に耐えながら電車に揺られて現場へと向かう。今年は異常な暑さである。雨が降れば仕事は中止となり、ゆっくりと休めるのだが、どうゆうわけか夜間工事に入った途端に雨は一滴も降らないのだ。体中汗がねっとりと出て止まらない。衣服は汗でびしょぬれ。夜でも昼の残熱が凄まじく、熱帯夜が続く。

 しかし、それでも懸命に体を動かすのだ。100`余のマンホール鉄枠を気合いもろとも抱え起こし、転がしながら邪魔にならないところへ移動させる。削岩機でアスファルトをばりばり壊し、大ハンマーでコンクリートをたたき壊す。ツルハシ、スコップ、レーキ、それをフルに使っての激しい作業が続く。40`のジェットセメントを差し上げて担ぎ、錬り坂の上の砂に運んで袋を破って中身を出す。 それを汗を飛び散らしながら練って水を混ぜ、マンホールの周りに流し込む。

 作業終了後、ぐったりとして駅に向かう。朝の太陽はすでに熱く、30度近くになっている。出勤の人々がホームの至る所で電車を待っている。ぼーっとした頭で突っ立っていると、側に太った女性がやってきて止まった。なにやらつぶやいているので誰かと話しているのだろうと思った。

 ところが独り言であった。しかも、人差し指を出してしきりに十字を切っている。よく見ると何と真冬の服装をしている。こんな朝早くに、しかもこんなところで、暑さの我慢大会があるはずがない。毛皮の長袖シャツに皮のコート、黒い網型のストッキング。?????これは明らかに異常である。9字を切っているのだろうか……。

  「臨、兵、闘、者、皆、陳、列、在、前」 (りん、びょう、とう、しゃ、かい、ちん、れつ、ざい、ぜん) この文字を口にしながら指で空中に縦に4本、横に5本の線を描けばあらゆる災いから身を守り、勝利を得ることができるという。 いずれにしても気の毒な方である。「神々よ、彼女の無意識界の奥に潜む心の傷と病をいやし、心身を浄化してお助けください」 私は心でそう祈り、電車に乗った。

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人生の幸せ 7月11日 水曜日 晴れ

 夜勤の連続で頭がぼーっとしている昨今です。とにかく凄まじい。連日連夜の激戦であります。アスファルト舗装面の切削。その大型切削機が強烈だ。厚さ27aまで切削できる。ドイツ製でエンジンはベンツだという。値段は8000万円。名前は定かではないが Wirld-Drigger という感じのものだった。

一本2万円という鋼鉄&ダイアモンドの爪が500本付いていて、それが回転して石であろうが鉄であろうが何でも削っていくのだ。ベルトコンベアーが、鋼鉄のアングルアーム(長さ18b)に吊り上げられて、大型ダンプにアスファルト粉塵が積み込まれていく。

その背後からスコップを持ってついていく作業員は全員汗びっしょり。マンホールや電柱周りに山積みとなったアスファルトかすをショベルに積み込んでいくのだ。削り残りはブレイカーでばりばりはつる。

 その作業が4日間続いた。そしていよいよ仕上げのアスファルト舗装である。踏切からのスタートだか、終電車が通る午前1時3分過ぎからでないとだめデース、と西武鉄道からクレームが来たのでそれまではいろいろな雑役に従事した。

 そして、舗装開始、轟音を上げてフニッシャーが発進。高温のアスファルトが敷き詰められていった。終わったのが午前6時15分。何と申しましょうか、もう、くたくたでござります。私は朝の太陽を眩しく感じながら、ビールを片手に帰途についた。 汗を出し尽くした後のビールはうまいですね。これが人生の幸せかも知れませんね……。

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顔で笑って心で泣く 7月3日 火曜日 晴れ
 
マンホール蓋の取り替えと高さ調整はきょうで完了した。大変な難工事で、帰るのがいつも朝の7時過ぎであった。今夜からはいよいよアスファルト舗装面の切削に取りかかる。約五百bの距離を4日でやるという。 しかし、いままでの作業に比べれば精神的、肉体的にも楽である。

午前5時頃、舗装復旧作業に取りかかろうとしていたとき、突然、背後で女の声がした。

「ちょっとあんた。一体、何時までやるつもりなんや」

振り向けば痩せた50近くの女で、酔っているのか、正気なのかはっきりしない目つきと言動である。いずれにせよ腹が立っているのは歴然としている。

「こんなにうるさいと、眠れへんやんか。いいかげんにしいや」

気の弱い私はビックリ仰天、なんと言っていいのか言葉もなくうろたえた。すると山崎監督が飛んできて、平身低頭、185aの巨体をバッタのように何度も何度も折り曲げて謝った。
「申し訳ございません。あと1時間ほどで終わりますのでどうか許してください」

「申し訳ございませんの言葉だけで片づけるつもりか。このどアホー」

しかし山崎はなんと言われても平謝り、すみません、許してください、ごめんなさい、の連続であった。女は大阪弁の凄みで悪態を突くだけ突いたあと、マンションの中に消えていった。

顔で笑って心で泣く、それが監督の定め、気の毒でもあり、偉いとも思う。30代の若さにも関わらず額から禿が広がっているのはそういういろいろな苦労があるからであろう。

この苦しみを心の完成に向ければいいのだが、これが煮え切らないで、いつまでも燻って蓄積されていくと、心の病となる。苦しみをいかに受け止めて処理するか、人間の課題はそこにあるのかも知れない……。

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